フリーランス配達員の配達中の怪我、労基署が労災と認定
2025/03/24 契約法務, 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般, 物流

はじめに
ネット通販大手のアマゾンから荷物の配達を請け負う会社と委託契約を結んでいたフリーランスの配達員が配達中に怪我をした事案で、宮崎労働基準監督署は2月28日、この怪我について労災と認定しました。
労災は原則、企業に勤める労働者に適用されますが、今回は男性の働き方が労働者性を有すると判断され、労災認定されたものとみられています。いわゆるフリーランスの労働者性についても後半でおさらいしていきます。
フリーランス配達員の怪我 労災認定
労災が認められたのは、アマゾンジャパン合同会社から荷物配送の業務を請け負う会社と業務委託契約を締結したフリーランス(個人事業主)の配達員の男性です。
3月19日に男性とその弁護団が記者会見し、労災認定を受けたと明らかにしました。
弁護団の発表によりますと、男性は2024年3月17日午後4時頃、配達業務中に、配送先の集合住宅の外階段で足を滑らせて転倒。腰から胸にかけての左上半身を強く打ち、翌日病院で腰の骨折などと診断されました。
男性はこの事故当日から同年8月16日までの約5ヶ月間治療を受け、9月16日まで休業を余儀なくされました。
報道などによりますと、男性は業務委託先の会社から荷物を積み込む開始時刻などが指示されていたほか、アマゾンのアプリで配達ルートを割り当てられていました。毎日タイムスケジュールに沿って1日200件を超える配達ノルマが課されており、コンビニなどに長時間入店していると指導の連絡が入るなど、業務遂行状況を管理されていたといいます。
男性は、業務遂行上の指揮命令が存在していたことなどを主張し、2024年春に労働基準監督署に労災を申請。それが先月、認められました。
弁護団は「アマゾン配達員らはアマゾンジャパンおよび下請業者の指揮監督の下で配達業務を行っており、労働基準法及び労働者災害補償保険法上の労働者に該当すると一貫して主張してきた」とし、今回の労働基準監督署の決定を評価しています。
国の労災保険の対象は、原則、企業に雇用されて働く労働者です。しかし、今回のケースでは、男性がほぼ企業の労働者のように働いていたことから、労働基準監督署が労災認定したとみられています。
弁護団によれば、いわゆる、「アマゾン配達員」の怪我が労災と認められたのは、全国で2例目だということです。
フリーランスの「労働者性」とは
近年、働き方の多様化に伴って、フリーランスや業務委託、請負契約など雇用以外の形態で働く労働者が増加しています。デジタル化の進展による事業組織のフラット化、ネットワーク化、インターネットを介した注文や指示に基づくビジネスモデルが拡大したことや、時間・場所に縛られない自由な働き方を希望する人が増えたこともその要因と言われています。
しかし、フリーランスは原則として労働基準法や最低賃金法、労働契約法、労働安全衛生法、雇用保険法、労災保険法など多くの労働関係法令の適用がありません。
そのため、労働条件の保護や雇用継続の保護、保険による保護、集団的労使関係の保護など、労働者なら当然に認められている保護が与えられないという弊害があります。
最近では、実質的に「労働者」であるにもかかわらず、これら労働法規の適用を回避する目的で業務委託や請負といった形態を採用している企業も増加していると指摘されていますが、法律上、労働者性の判断は、次の要素を総合的に勘案し、個別具体的に行われます。
(1)事業者の指揮監督下にあるか
仕事の依頼・業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、業務遂行上の指揮監督の有無、拘束性の有無、代替性の有無
(2)報酬の労務対償性があるか
報酬の性格が使用者の指揮監督下で一定時間働くことに対する対価となっているか(労働の結果による金額の較差の大小、欠勤による報酬の減額の有無、超過勤務時の別手当の支給有無)
(3)事業者性があるか
機械・器具の負担関係、報酬の額
(4)専属性の程度
経済的に当該企業に従属しているか(他社業務に従事することへの制限の有無、時間的拘束の度合い、報酬に生活保障的な要素が伺える固定給があるか)
事実上の「労働者」と認められた場合、労働基準法の労働時間や賃⾦等に関するルールが適⽤されます。さらに、雇用保険・労災保険などが適用されることになります。
宝塚歌劇団に是正勧告、契約上はフリーランスでも事実上「労働者」と認定(企業法務ナビ)
労働者性に関する裁判例
労働者性が問題となった例として、まず業務委託契約で授業を行っていた予備校の講師が挙げられます。
この事例では当初「雇用契約書」での契約を締結していたところ、後から「業務委託契約」に転換されており、さらに予備校の方針に従い、忠実に業務を行う旨の確認書を提出させていたとされます。
また、個別の業務の範囲を超える命令を行っていたり、業務と関連性が乏しい賞与を半年ごとに支払っていたことなどから予備校の指揮命令下での労務提供であり労働者に該当すると判断されました(東京地裁令和5年2月3日)。
この例とは異なり、最初から業務委託契約を締結していたところ、その後固定報酬が支払われるようになり、窓口業務や全社員が出席する定例会への出席が求められるようになったという例があります。この例では業務の諾否の自由はなく、他の社員と同様に週5日で8時間以上稼働し、タイムカードも打刻されていたことなどから労働者性が認められています(東京地裁令和2年3月25日)。
コメント
一般的に、企業がフリーランスを業務委託で活用する目的の一つとして、(1)専門的知見やスキルの調達が挙げられますが、中には、(2)雇用の調整弁や、安価で融通の利く労働力としての活用などを目的とする企業も見られます。
そして、(2)の目的で使用する企業においては、社会保険料の負担が生じず、労働法上の制約も受けない、都合の良い労働力として、フリーランスを扱うケースが少なくありません。
しかし、今回のケースのように、フリーランスとの業務委託契約であっても、業務の指揮命令や拘束の度合いが強い場合は「労働者」と判断されることがあります。
そして、後から労働者性が認められた場合、労働関係法令上の義務が一気に求められることとなります。
フリーランスの活用は、企業に新たな選択肢を与えるものであることは間違いありませんが、働き方の自律性の担保が求められる点で、「労働者」とは全く別の選択肢であることを企業側は肝に銘じる必要があります。
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