職場結婚後、妻は雇い止め・夫は降格。夫婦が勤務先の宮崎産業経営大学を提訴
2025/03/18   契約法務, 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般, 教育、学習支援

はじめに


宮崎市の私立大学で、職場結婚後に妻が雇い止めを通告された上、妻と夫の2人ともが懲戒処分を受けました。2月19日、夫婦は大学を相手取り、処分の無効などを求める訴えを起こしました。

 

職場結婚後に懲戒処分


今回、訴えを提起したのは、学校法人大淀学園宮崎産業経営大学の元教授の男性(40代)と元助教の女性(30代)です。

報道などによりますと、2人は同大学の法学部で共に働いていて、2024年7月に婚姻届を提出しました。その2日後、男性が学長に結婚を報告したところ、不快感を示されたということです。

報告の約1週間後には、学長が女性に対して、2025年3月末での雇い止めを通告したといいます。雇い止めの理由について、大学側からは「同じ職場の職員同士が婚姻した場合、1人が退職するのが不文律」などという説明があったということです。助教の女性は異議を申し立てました。

その後、大学側は、「女性が学生だった頃から2人が交際していて、男性が大学側に直談判して女性を教員に採用させた」と主張。2人に戒告の懲戒処分を科しました。
昨年12月20日には、大学側から2人に懲戒手続きの文書が届いたといいます。その文書の注釈で「産経大は小規模であり、夫婦共稼ぎはご遠慮いただく不文律がある」と記されていたということです。

そして、2025年2月26日付で女性は教員から事務職員に配置転換となり、男性は教授から准教授に降格する処分を受けました。なお、2人は、学生時代からの交際の事実について「事実無根」であると主張しています。

夫婦は一連の処分や対応を受け、2025年2月19日、大学を運営する学校法人と学長を相手取り宮崎地方裁判所に提訴しました。
2人は、雇い止めや懲戒処分などは労働契約法などに違反し不当だと主張。教員としての地位の確認や処分の無効などを求めています。

訴えを受けて宮崎産業経営大学は「本事案は単なる雇用関係をめぐる争いではなく、学園の秩序・規律を乱した重大な規律違反の問題」とコメントし、裁判で争う姿勢だということです。

 

雇い止めについて


「雇い止め」とは、期間の定めのある雇用契約(有期雇用契約)において、雇用期間を更新せずに契約を終了させることを指します。雇い止めを行った場合、契約期間の満了に伴い、そのまま契約終了となります。

ただし、有期雇用契約とはいえ、複数回更新が行われ、結果的に長期間雇用されている場合には、雇われる側(被雇用者)として、「次回も更新される」と期待するのが自然です。そうした理由などから、期間の定めがある場合でも、一方的な雇い止めによる契約終了が無効となる場合があります。

雇い止めが無効になる要件として、次が挙げられます。

(1)労働者が有期労働契約の更新の申し込みをしたこと
(2)有期労働契約が実質的に無期雇用契約と同様になっている。または、契約が更新されると期待することに合理的な理由があると認められること
(3)雇い止めに客観的に合理的な理由がなく、社会一般からみて相当と認められないこと

 

コメント


今回の裁判で、争点の一つとなるのが、妻の雇い止めの適法性です。中でも、大学側が行った(3)更新拒否の合理性・相当性がポイントとなりそうです。

裁判では、雇い止めの理由やトータルの契約期間、これまでの更新回数、雇い止めの予告の有無・期間に加え、契約締結時にどのような条件が更新条件として明示されていたかなども検討されると予想されます。

ただ、事前の明示の有無に関わらず、大学側が不文律として主張する「同じ職場の職員同士が婚姻した場合、1人が退職する」という“結婚退職制”は、法の下の平等(憲法第14条)、差別的取り扱いの禁止(男女雇用機会均等法第6条)、公序良俗(民法第90条)に違反し無効となると考えられています。

「結婚による雇い止め」という労働契約の公平性が問われる裁判。どのような判決を宮崎地方裁判所が下すのか注目されます。

 

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