京都地裁が京都新聞HD元相談役に約5億円支払い命令、会社法の利益供与とは
2025/01/27 商事法務, コンプライアンス, 会社法

はじめに
京都新聞HDと子会社2社が、大株主であった元相談役に支払った報酬など約5億1千万円の返還を求めた訴訟で京都地裁は23日、全額の支払いを命じる判決を出しました。報酬に見合った職務を行っていなかったとのことです。今回は会社法が規制する利益供与について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、元相談役は京都新聞社の経営に関わってきたオーナー家の女性で同社の取締役などを努めた後、1987年~2021年に京都新聞HDの相談役に就任していたとされます。一族の株式保有会社分などを含めると、同社株式を25%以上保有していたとのことです。第三者委員会の調査では、同相談役に支払われていた報酬は年間平均で約4800万円以上とされ、2021年2月までの34年間で総額19億円余りにのぼるとされておりました。同相談役は就任後も年数回程度自宅で役員から経営状態の聞き取りを行うのみで出社は全くしていなかったとされます。京都新聞HDとその子会社は、これらの相談役報酬は会社法に違反する利益供与に当たるとして、その一部である約5億1千万円の支払いを求め提訴しておりました。
利益供与とは
会社法では株主等に対する利益供与行為を禁止しております。会社法120条1項によりますと、「株式会社は、何人に対しても、株主の権利…の行使に関し、財産上の利益の供与…をしてはならない」としております。株主に金銭等を提供して、株主総会で会社側に賛成するよう依頼するといったことが典型例と言えます。違反した場合は利益供与をした取締役等に対し3年以下の懲役または300万円以下の罰金が規定されております(970条1項)。もともとこの規定は総会屋対策を主眼に置いたものとされておりますが、対象は総会屋だけでなくすべての株主となっており、会社財産の浪費を防止して、会社経営の健全化を図ることが趣旨とされております。以下具体的に要件を見ていきます。
利益供与の要件
上でも触れたように、利益供与は「何人に対しても」と規定されており、利益を供与する相手は株主に限定されておりません。株主以外の者に提供することを要求されたり、そもそも株主にならないことを条件に金品が要求さえるといった場合も想定されているからです。そして「株主の権利の行使に関し」の株主の権利とは自益権、共益権のいずれも含まれるとされ、議決権の行使、株主提案、株主総会の運営、株式の取得請求権、株主代表訴訟などやらゆる株主の権利の行使または不行使が含まれます。提供する「財産上の利益」は無償で提供する場合はもちろん、売買など対価を得て提供する場合も含まれます。その財産の範囲は財産的価値があるものとされ、人の欲望をみたすあらゆるものとされている刑法上の贈賄罪よりは範囲が狭いと言われております。なお売買などの場合でも、著しく少ない対価で提供した場合は利益供与と推定されます(120条2項)。また財産の提供は会社または子会社の計算で行われる必要があり、取締役等が自腹で提供した場合は利益供与には該当しません。
財産の返還責任
利益供与がなされた場合、一定の者は会社に対して返還責任を負います。まず利益供与を受けた者は当然会社に対して返還する義務があります(120条3項)。これは利益供与に該当するかについて善意や悪意は無関係とされております。そして利益供与に関与した取締役や執行役等も供与を受けた者と連帯して会社に支払う義務を負います(同4項)。このうち取締役会決議で賛成した取締役、議案の提案した取締役などは無過失を証明した場合は支払い義務を免れますが、利益供与行為を直接行った取締役等は無過失を証明しても免れません。そしてこれらの返還義務が免除されるには総株主の同意が必要とされております(同5項)。そしてこれらの責任追求については株主代表訴訟の対象となっております(847条1項3項)。
コメント
本件で京都地裁は、元相談役が社内で格別の存在感を持つオーナー家を代表する存在で、株主総会で経営方針に反対や異議を唱えられると、円滑な経営が難しくなると予想されたと指摘し、支払われていた報酬は、株主権の不行使の見返りだったとして利益供与に当たるとしました。判決を受け同社は高い公共性が求められる報道機関を中核とする同社で法令違反状態が長年続いたことをお詫びし再発防止に務めるとしております。以上のように会社法の利益供与は定時株主総会での総会屋対策だけでなく、大株主に株主権を行使しないよう求めるために金品を提供する場合も該当します。自社の株主に株主優待等以外で会社の負担で何らかの利益を提供していないか、今一度見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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