小林製薬の大株主が紅麹サプリの健康被害問題をめぐり提訴請求
2024/12/04 商事法務, コンプライアンス, 会社法, 医療・医薬品

はじめに
小林製薬は3日、「紅麹」サプリメントによる健康被害問題を巡り、大株主が当時の経営陣の責任を追求するため提訴するよう請求されたと明らかにしました。請求額は100億円超とのことです。今回は会社法の株主代表訴訟について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、小林製薬は、「紅麹」の成分を含むサプリメントを摂取した人が腎臓の病気などを発症した健康被害問題で、製品の回収費用などで100億円超の特別損失を計上したとされます。これを受け、同社の大株主である香港系投資ファンド「オアシス・マネジメント」が、同社前会長ら当時の経営陣と社外取締役の計7人に対し損害賠償を求めて提訴するよう請求したとのことです。オアシス・マネジメントは小林製薬株を7.54%保有しており、請求額は100億円超とされます。またオアシス・マネジメントは小林製薬に対し、新たに社外取締役3人の選任などを求めており、臨時株主総会の招集も要求しているとのことです。
株主代表訴訟とは
会社法423条1項では、取締役や会計参与、監査役などの役員等が、その任務を怠ったときは会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負うとしております。これを一般に任務懈怠責任と言います。取締役と会社との関係は委任関係であり、取締役は会社に対して善管注意義務と忠実義務を負います(330条、355条)。これらの義務に違反することが任務懈怠ということです。任務懈怠の例としては、会社法や独禁法、金商法といった法令に違反する行為が典型例と言えますが、場合によっては経営判断のミスによる損害も対象となる場合があります。このような場合には会社は当該取締役等に対し損害賠償を求め提訴することができます。しかし同僚意識などで十分な責任追求が期待できない場合があります。そこで一定の要件の下、会社の利益のために株主が提訴することが認められております(847条1項)。これが株主代表訴訟です。
株主代表訴訟の対象
株主代表訴訟は上でも触れたように役員等の任務懈怠責任を追求する場合に利用されますが、それ以外にも利益供与がなされた際に、利益を受けた者に対する返還請求や、不公正価格で新株発行がなされた場合に引受人に対する差額支払請求でも利用されます。会社は株主の権利行使に関して、何人に対しても利益の供与をすることが禁止されます(120条)。利益供与がなされた場合、利益を受けた者は会社に返還する義務を負い、また関与した取締役も連帯して支払い義務を負います。この責任追求についても株主代表訴訟が可能です。また新株発行や新株予約権の発行に際して、不公正な金額で引き受けた者や、払込を仮装した者に対する支払い請求でも同様に対象とされております。
株主代表訴訟の手続き
取締役等に対する責任追求の訴えは、本来は会社が提起すべきであることから、株主はまず会社に対して提訴請求をすることとなります。ここに言う「株主」は、公開会社では6ヶ月前から引き続き株式を保有する者を言います(847条1項)。保有する株式数は1株でよく、非公開会社では6ヶ月制限もありません(同2項)。提訴請求の日から60日以内に会社が提訴しない場合に、株主は株主代表訴訟を提起することが可能となります(同3項)。しかし60日の経過を待っていては会社に回復することができない損害が生ずるおそれがある場合は、株主はただちに提訴することが可能です(同5項)。なお提訴請求を受けたにもかかわらず、提訴しない場合は、会社は株主に対し遅滞なくその理由を書面等で通知しなければなりません(同4項)。また訴訟係属中に株主が株主でなくなった場合は原則として原告適格を失いますが、合併や株式交換等による場合で、存続会社や完全親会社の株式を取得した場合は引き続き原告適格を保持します。
コメント
本件で小林製薬の株式を7.54%保有するオアシス・マネジメントは紅麹による健康被害問題による損失を招いたとして、旧経営陣らに対し提訴するよう請求しました。会社側が提訴しない場合は、25年1月下旬に株主代表訴訟が提起できる見通しです。同社は提訴請求に対し、監査役が調査・検討の上判断するとしております。以上のように会社に不祥事が発生した場合、株主から経営陣に対する責任追及の声が上がることがあります。会社が提訴しないと決めた場合、その理由を通知する必要があります。なお不正な利益や会社に損害を与える目的での濫用的な代表訴訟はできないこととなっております(847条1項ただし書き)。提訴請求がなされた場合は、提訴する理由や株主の意図なども含め、60日の間で慎重に調査・検討することが重要と言えるでしょう。
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