東京高裁が家政婦の急死に労災認める、家事使用人と労働者について
2024/09/24 労務法務, 訴訟対応, 労働法全般

はじめに
家政婦として長時間労働をしたことにより死亡した女性について、労災と認められなかったのは不当であるとして遺族が訴えていた訴訟で東京高裁が労災と認めていたことがわかりました。家事使用人には該当しないとのことです。今回は家事使用人と労働者について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、当時68歳だった女性は2015年、寝たきりの高齢者の家に住み込みで家政婦や訪問介護ヘルパーとして働いていたとされます。女性は勤務後、急性心筋梗塞で亡くなったとされ、女性の遺族が過酷な労働を強いられていたとして労災申請したところ、女性は個人の家庭に雇われた家事使用人に当たるとして労災が認められなかったとのことです。遺族は労災不認定の処分を不当として取り消しを求め提訴しておりましたが、一審東京地裁は原告の請求を棄却しておりました。
「労働者」とは
労働関係法令が適用されるかにつき、「労働者」に該当するかどうかは大きな問題となります。たとえばフリーランスや業務委託などの場合にもこの労働者性はしばしば争点となっております。労働基準法9条によりますと、「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業または事業者に使用される者で、賃金を支払われる者をいうとされます。具体的な判断基準としては、(1)労働が他人の指揮監督下で行われているか、(2)報酬が指揮監督下における労働の対価として支払われているかとされております。業務の指示や依頼があった際にそれを受けるかどうかを自分で決められない場合、業務内容や遂行方法などについて具体的な指揮を受けている場合、勤務場所や勤務時間が管理されている場合は指揮命令下の労働と判断される方向に傾きます。受けた仕事を自分に代わって他人ができない、つまり代替性がない場合や、報酬が時間ベースで定められている場合も労働者性を肯定する方向に傾く事情となります。
家事使用人とは
労働基準法116条2項によりますと、「この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない」とされております。つまり家事使用人である場合には労働基準法の適用はなく、また同様に労災保険法の適用もないということになります。それでは「家事使用人」とはどうのような人を言うのでしょうか。この点、通達によりますと、「家事使用人とは、家事一般に使用される労働者を言う。たとえば、その会社の役員の家庭において、その家族の命令により家事一般に従事している者は、会社に雇い入れられたものであっても家事使用人であり、労基法の適用にならない」とされております(昭和63年基発150号)。社長宅のお手伝いさんといった人が典型例と言えます。このような人を会社に雇い入れたとしても労基法上の労働者とは扱われないということです。
一審東京地裁の判断
本件で一審東京地裁は、個人宅と直接契約を締結して家事業務を担っていることから、女性を労基法116条2項に言う家事使用人に該当すると判断しました。そのため労働基準法が適用されず、睡眠時間を除いた1日19時間の業務時間のうち、家事の時間は労働時間に算入せず、介護にあたっていた4時間半のみを労働時間と認定し、過重な業務をしていたとは認められないと判断しました。この判断については同様の業務内容でありながら、事業者から派遣されている場合には労基法が適用され、保護の対象となるのに対し、個人宅と直接契約をした場合には適用除外となるのは憲法の定める平等原則に反するのではないか、また今後も高齢者は増加し、同様の家事代行サービスの需要増加が見込まれる中、このような扱いは時代遅れではないかとの批判の声が上げられております。
コメント
本件で東京高裁は一転、家事業務および介護業務は会社との間における雇用契約に基づくものであり、一体として会社の業務ということができるとし、家庭内の私的領域に国家的規制や監督を行うことが不適切であるという労基法116条2項の趣旨は妥当しないとして女性が家事使用人に該当するとした判断は違法なものと言わざるを得ないと判断し、労災を認めました。現在厚労省は「家事使用人の雇用ガイドライン」を策定・公表しており、また家事使用人についても労基法が適用されるよう法改正に向けて調整しているとされます。同規定は労基法が施行された1947年から存在しており、家族の一員とみなされていた「女中」を念頭に置いたものとされ現代の時代背景にそぐわないとされます。以上のように介護ヘルパーなどを一般家庭に派遣し、直接契約させるという形態を採用していても、今後労働法の適用除外とは判断されない可能性が高いと言えます。これらを踏まえて従業員の労働形態について見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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