損保ジャパンからの出向者、出向先トータル保険サービスの顧客情報を漏洩か
2024/07/18 契約法務, 労務法務, 情報セキュリティ, 不正競争防止法, 労働法全般, 金融・証券・保険

はじめに
損害保険や生命保険の代理店業務を手がけるトータル保険サービスは7月12日、損害保険ジャパンからの出向者が、顧客の契約情報などを出向元である損保ジャパンに漏洩させていたと発表しました。
過去には、出向者が営業秘密を不正に持ち出し悪用したとして、出向先の企業が出向者に損害賠償請求を求める裁判を起こしたケースもあります。
保険代理店の顧客情報が漏洩
株式会社トータル保険サービスは、損害保険ジャパンの取扱代理店業務を行っています。同社の発表によると、トータル保険サービスで契約した顧客の契約情報(一部、個人情報を含む)が、損害保険ジャパンに漏洩していたということです。7月10日に損保ジャパン側から報告があり、事案が発覚しました。
トータル保険サービスでは、損害保険ジャパン以外の保険商品も取り扱っており、今回、損保ジャパンを含め20社弱の保険商品に関する契約情報が漏えいしたということです。
漏洩が確認された契約件数は約2700件。法人名や代表者名などの保険契約者名、契約する保険会社、保険種目や期間、保険料のほか、トータル保険サービスの担当者の情報も含まれているとみられます。
現在、情報漏洩について詳しい調査が進められていますが、トータル保険サービスは関係機関に報告の上、漏洩のあった顧客への対応を行なっているといいます。
出向元の守秘義務規程は出向先でも遵守義務あり
契約情報や営業秘密などの漏えいは、会社に深刻なダメージをもたらしかねません。
過去にも、出向中の社員が、出向先の会社から顧客情報を持ち出し、その後ライバル会社の取締役に就任した事案がありました。この事案では、出向先の会社がライバル会社に対し、損害賠償を求める訴訟を提起しています。
長谷工ライブネット事件(東京地判平23・6・15)
【事案の概要】
不動産賃貸の管理受託業を営むX社にA社から出向中だったZ氏は、出向元企業に退職願を出したのと同じころに、X社が不動産管理を受託していたオーナーの住所や連絡先などが記載されたExcelファイルを自宅に送信しました。
その後、ライバル会社Y社の役員に就任したZ氏は、前述のExcelファイルにリストアップされた不動産オーナーらに対し、管理委託先をY社に切り替える提案営業を実施しました。
その結果、提案営業を行った49の物件中、14物件のオーナーがX社との契約を解除し、代わりにY社との間で管理委託契約を締結したといいます。
一連の事態が発覚し、出向先だったX社は、Y社及びZ氏に対し、守秘義務違反や競業避止義務違反、不法行為などを理由に、損害賠償を求める訴訟を東京地方裁判所に提起しました。
【主な争点】
訴訟の争点の一つは、「出向元企業の就業規則に規定された守秘義務や競業避止義務が、出向先でも出向者に適応される否か」という点でした。
Z氏の出向元であるA社では、就業規則で守秘義務と競業避止義務を規定していましたが、Z氏は「これらの規定による守秘義務などは、あくまで出向元であるA社に対して負うものである」と主張していました。
【裁判所の判断】
これに対し、東京地方裁判所は、「就業規則に規定された守秘義務及び競業避止義務は、労働契約上の付随義務として当然負担すべき義務をあえて明文化したもので、当該規定が仮になくともこれらの義務は負っていると解される」とし、
仮にX社においてこれらの義務に関する規程がなかったとしても、Z氏はA社の就業規則に定める内容の守秘義務及び競業避止義務をX社との関係においても負担していたみるべきと判示しました。
そのうえで、最終的にZ氏の不法行為及びYの使用者責任を認め、連帯して損害賠償を支払うよう命じています。
コメント
近年、幹部候補社員の武者修行や従業員のスキルアップ・キャリア開発、雇用調整などを目的に、自社の従業員を他社に出向させる事例が増えているといいます。
出向先企業としても、労働力不足の解消、自社にない知見を持った人材の活用、出向者からの技術指導による職場のレベルアップなどのメリットがあり、出向制度を上手に活用することで、双方ウィンウィンの関係が築けるケースも少なくありません。
その一方で、出向者が出向先で重要な仕事を任されるほど、センシティブな情報に触れる機会も増える傾向があります。また、出向者に関しては、内容によって、出向元・出向先いずれの就業規則の適用を受けるのかが使い分けられているところがあり、その曖昧さゆえに、規程を遵守する意識が低下するケースもあります。
日ごろから十分なセキュリティ対策を施しておくとともに、
・企業間の出向契約の中で秘密情報の保持(漏洩時の責任範囲等)に関し、詳細に定めておくこと
・出向元が出向者を送り出す際に、秘密情報の保持に関し、十分な指導・教育を行うこと
・出向先の就業規則において、秘密情報の管理等について、具体的に規定しておくこと
などが重要になります。
新着情報
- 弁護士
- 目瀬 健太弁護士
- 弁護士法人かなめ
- 〒530-0047
大阪府大阪市北区西天満4丁目1−15 西天満内藤ビル 602号

- 業務効率化
- クラウドリーガル公式資料ダウンロード

- 解説動画
大東 泰雄弁護士
- 【無料】優越的地位の濫用・下請法の最新トピック一挙解説 ~コスト上昇下での価格交渉・インボイス制度対応の留意点~
- 終了
- 視聴時間1時間

- 解説動画
岡 伸夫弁護士
- 【無料】監査等委員会設置会社への移行手続きの検討 (最近の法令・他社動向等を踏まえて)
- 終了
- 視聴時間57分

- まとめ
- 改正障害者差別解消法が施行、事業者に合理的配慮の提供義務2024.4.3
- 障害者差別解消法が改正され、4月1日に施行されました。これにより、事業者による障害のある人への...

- ニュース
- コロナ社にカヤバ社、下請業社への金型無償保管で公取委が勧告/23年以降15件目2025.4.28
- NEW
- 金型保管をめぐる下請法違反の事例が相次いでいます。 暖房機器などの製造・販売を行う「株式...

- 業務効率化
- Legaledge公式資料ダウンロード
- セミナー
森田 芳玄 弁護士(弁護士法人GVA法律事務所 パートナー/東京弁護士会所属)
- 【オンライン】IPOを見据えた内部調査・第三者委員会活用のポイント
- NEW
- 2025/05/21
- 12:00~12:45
- 弁護士
- 髙瀬 政徳弁護士
- オリンピア法律事務所
- 〒460-0002
愛知県名古屋市中区丸の内一丁目17番19号 キリックス丸の内ビル5階