改正金商法成立、30%超でTOB義務へ
2024/05/21 金融法務, 金融商品取引法, 法改正

はじめに
株式を大量取得する場合のTOB実施義務を拡大する改正金商法が15日の参院本会議で可決、成立しました。3分の1を超える場合から30%を超える場合に拡大されます。今回は金商法のTOB制度と改正について概観していきます。
改正の経緯
金商法のTOB制度は2006年以降大きな改正はなされませんでした。しかし近年、市場内取引を通じた非友好的買収事例の増加や、M&Aの多様化、パッシブ投資の増加、協働エンゲージメントの広がりや企業と投資家の建設的な対話の重要性の高まりなど、資本市場における環境の大きな変化が指摘されておりました。そこで金融審議会のワーキンググループはTOB制度、大量保有報告制度、実質株主の透明性などについて検討を重ねてきました。そして今年3月15日、第213回国会にTOB制度や大量保有報告制度などの見直しに関する「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律案」が内閣提出法案として提出されました。
株式公開買付とは
株式公開買付(TOB)とは、「Takeover
Bid」の略で、対象企業の経営権取得等を目的として、株式の買付価格や期間、株式数などを公告し、取引所外で株主から大量に株式を買い付ける制度を言います。このTOBのメリットとしては、買収成立までの見通しが立ちやすく、株価変動の影響を受けにくいこと、そして株主にとっても市場で売るよりも高値で買い取ってもらえる点が挙げられます。そして株式が市場で知らない間に大量に買い付けられる場合に比べ、会社や一般株主にとっても対応しやすく、取引の透明性や公正性を保つことができます。一方でTOBは買付者にとっては市場で買い集めるよりもコストが高くなり、また非友好的買付の場合は企業に対策を講じられやすく成功率が低いなどといったデメリットが指摘されております。
TOB制度と大量保有報告制度
金商法では発行済株式総数に占める保有株式数の割合が5%を超える場合は大量保有報告書を提出する義務を課しております。この保有割合は本人だけでなく、共同で買付を行っている者やグループ会社等の保有数も合算されます。そして大量保有報告書を提出した後、1%以上の増減があった場合も変更報告書の提出を要します。
そして金商法では一定の場合にTOBを実施することを義務付けております(27条の2)。まず(1)多数の者(60日間で10名超)からの買付により保有割合が5%を超える場合にはTOBの実施が必要です。次に(2)少数の者(60日間で10名以内)からの買付によって株式の保有割合が3分の1を超える場合も同様にTOBの実施が義務付けられます。(3)TOB後にその会社が上場廃止となる場合には株主を保護する観点から、買付け後保有割合が3分の2以上となる場合は応募株式の全部の買受が義務付けられます。(4)市場内外の取引や増資などを含め、急速な買付け後に保有割合が3分の1を超える場合も同様とされます。
改正後
上記のように買付によって株式保有割合が3分の1を超える場合にTOBの実施を義務付けておりますが、今回成立した改正法では3分の1から30%を超える場合に基準を下げております。具体的には33.4%から30%に範囲が拡大されるということです。会社法では合併や事業譲渡、定款変更など会社の重要な事項については3分の2以上の賛成による決議が必要とされます。そのため従来は3分の1を超える株式を保有していれば単独でこの特別決議を阻止することができます。そのため会社や他の株主保護の観点から金商法では3分の1をTOBの基準としてきました。しかし実際には全ての株主が議決権を行使することは稀で、30%程度の保有で特別決議を阻止することが可能となる場合が多いとされてきました。そこで今回の改正で30%に基準を下げることとなりました。
コメント
近年、いわゆるアクティビストと呼ばれる物言う株主の活発化や市場取引を利用した敵対的買収の増加、さらには経営陣による自社株の買い集めと上場廃止の事例が急速に増加しております。それに伴い株式取引の環境整備が急務となっておりました。今回の法改正では会社や既存の一般株主保護を主眼にTOB制度や大量保有報告などに関して見直しがなされております。TOB制度は自社の会社支配に直結する重要な制度と言え、M&Aや敵対的買収、上場廃止を伴う経営再建など様々な場面で登場します。今後の改正法の施行など当局の動向を注視しつつ、制度の概要やそれに対する対応・対策を普段から検討し社内で周知していくことが重要と言えるでしょう。
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