米グーグル、LINEヤフーへの広告配信制限要請で公取委に改善計画を提出/確約手続とは
2024/04/17   コンプライアンス, 行政対応, 独禁法対応, 独占禁止法, IT

はじめに

 米グーグルがヤフーに対し、デジタル広告配信事業の一部を制限するよう要請していた疑いがあるとして、公正取引委員会が独禁法違反容疑で調査していたことがわかりました。同社は改善計画を提出しているとのことです。今回は独禁法の確約手続について見直していきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、ヤフーは2010年頃からグーグルと提携し、広告配信技術の提供を受け、スマートフォンなどのポータルサイトに検索連動型広告を配信していたとされます。しかしグーグルはその後、スマートフォン用の広告配信をやめるようヤフーに求め、それに応じたとのことです。。国内の検索連動型広告の市場規模は1兆円を超え、グーグルがシェアの7~8割を占めており、要請を拒めば検索や広告配信に関する技術を使えなくなることを懸念したとみられております。公取委はグーグルの要請が独禁法で禁じる私的独占や不公正に取引方法に当たる可能性があるとして調査を行っておりました。

 

私的独占とは

 私的独占とは、「事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法をもってするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう」とされます(独禁法2条5項)。私的独占には排除型私的独占と支配型私的独占があり、前者は不当な廉価販売などをすることによって競争相手を市場から排除したり、新規参入を妨害するなどして市場を独占しようとする行為とされます。そして後者は他の事業者の事業活動における自由な意思決定を制約または拘束することによって、その事業活動を自己の意思に従わせることで市場を独占する行為とされます。「一定の取引分野」とはいわゆる市場を意味し、「競争の実質的制限」とは「ある程度自由に価格、品質、数量その他各般の条件を左右することによって市場を支配することができる状態を形成、維持、強化すること」とされます(東京高裁平成21年5月29日)。

 

確約手続とは

 「確約手続」とは、独禁法違反の疑いがある事業活動について、公取委と事業者との間の合意により独禁法上の問題を自主的に解決する手続とされております。これは「環太平洋パートナーシップに関する包括的かつ先進的な協定(TPP11)」により導入された制度で、平成30年12月30日に施行されております。従前、独禁法違反の疑いが生じた場合、公取委が調査して違反が認められた場合には事前通知、聴聞手続などを経て排除措置命令や課徴金納付命令が出されておりました。これに対し確約手続では公取委から独禁法違反の疑いがある旨通知され、事業者が改善計画を自主的に作成し、公取委が認めた場合にそれ以上の法的措置は行わないという、迅速で穏当な問題解決のための制度と言えます。原則として独禁法が禁止する全ての違反行為が確約手続の対象となっており、またリーニエンシー制度とは異なって公取委の調査前に事業者側から自主的に手続の利用を申請することはできないとされます。

 

確約手続の流れ

 公取委から独禁法違反の疑いがある旨の通知を受けた事業者は、確約手続を希望する場合は60日以内に確約計画を自主的に作成し、公取委に確約認定申請を行うこととなります。60日以内にこれがなされなかった場合は通常の手続となり、上でも触れたように調査、聴聞などを経て行政処分の流れに戻ります。この60日の期間制限は延長は認められておりません。提出した確約計画が認定されるためには、(1)確約措置の内容が十分であり、(2)確約措置を確実に実施することができると公取委が認める必要があります。具体的な内容としては、違反事実の取りやめや再発防止などを取締役会で決議し、公取委に履行状況を報告する、違反事実の取りやめ等を取引先または消費者等に周知する、定期的な監査や従業員に対する社内研修を実施する、競争秩序の回復のために事業譲渡や保有株式の売却等を行うことなどが例示されております。公取委が認定するか否かの判断にあたり必要な場合には第三者の意見公募を行う場合があります。確約計画が認定された場合には公取委からその旨公表され、行政処分は行われないこととなります。認定がなされなかった場合もやはり従来の手続に戻ります。

 

コメント

 本件でグーグルは業務提携を行っているヤフーに対しスマートフォンなどのポータルサイトへの広告配信をやめるよう圧力をかけた疑いが持たれております。グーグルは検索連動型広告市場で圧倒的シェアを持っており私的独占の疑いがあるとされます。すでに同社は確約手続での確約計画を公取委に提出しているとのことです。今後その内容の十分性や実現可能性などが審査され認定された場合にはそれ以上の行政処分は免除されることとなります。以上のように現在の独禁法ではリーニエンシー制度に加えて確約手続が導入されております。これにより迅速な解決が可能となり時間的にも経済的にも負担の軽減が期待できます。しかしこの制度は上でも触れたように通知を受けた日から提出までの期間が60日と短く、確約計画のために取引先との合意などが必要な場合はそれらも含めて60日以内に終えなければならない点に注意が必要です。そのような事態に備えあらかじめ手続の概要などを把握しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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