中国系と名指しされた音楽イベント会社、ヘイトを理由に泉南市議らを提訴
2024/02/08   コンプライアンス, 訴訟対応

はじめに


大阪府泉南市の市議が取材やSNSなどで発信したヘイトスピーチによって名誉を傷つけられたとして、2月2日、元中国籍男性が代表を務めるイベント企画会社が市議らに対して損害賠償などを求めて提訴しました。

過去には、ヘイトスピーチ文書を配布したことで精神的苦痛を受けたとして在日韓国人の女性従業員が会社を訴えた事例があるなど、企業や個人による発信の法的責任が問われる事例が増えています。

 

事案の概要


今回、訴えを提起したのは、イベント企画会社「TryHard Japan」です。花火大会や音楽イベントの企画や運営を手掛けており、代表を務める男性は、2008年に日本国籍を取得した後、2013年に同社を起業しています。

報道などによりますと、被告となった泉南市の添田詩織市議は、2023年2月、週刊誌からの取材に対し、TryHard Japanを「中国系企業」と発言したほか、公金が「中国系企業に“ダダ漏れ”している」、「中国共産党がバックの中国系企業への公金支出に行政機関は慎重を期すべき」などと回答。さらに、添田市議のYouTube動画では「中国企業にお金を出してイベントやって盛り上げる必要性はない」と非難したということです。

TryHard Japan側は「元中国籍との理由で社会から排除しようとした、政治活動に見せかけた不当な人種差別」と主張し、泉南市議会議員・添田詩織氏および泉南市を相手取り、1100万円の損害賠償などを求め、大阪地方裁判所に提訴しています。

提訴後の会見で代表の男性は「政治家のヘイトスピーチは断じて許せない」と述べ、添田市議個人に対する賠償責任が認められない場合でも、泉南市が賠償するよう求めていくとしています。

なお、TryHard Japanは、性加害問題が話題となったDJ SODAさん出演のイベント(2023年8月)の運営でも知られており、その際は、容疑者不詳のまま不同意わいせつ罪などで刑事告発を行っていました(後に、加害側とSODAさんとの間で和解が成立したのを機に告発を取り下げています)。

 

ヘイトスピーチとは


近年、インターネットやSNSの発展により、個人や企業の発信力が高まる一方、ヘイトスピーチに代表される、偏見や差別を伴う発信が問題となっています。

ヘイトスピーチとは、人種・宗教・ジェンダーなどを理由に、特定の集団や個人に対し、社会からの排斥を訴えたり、危害を加えるなどの一方的な内容の言動をいいます。以下、典型的なヘイトスピーチの例です。

(1)特定の民族や国籍の人々を合理的な理由なく一律に排除・排斥することをあおり立てるもの
(「●●人は出て行け」、「祖国へ帰れ」など)

(2)特定の民族や国籍に属する人々に対して危害を加えるとするもの
(「●●人は殺せ」、「●●人は海に投げ込め」など)

(3)特定の国や地域の出身である人を、著しく見下すような内容のもの
(特定の国の出身者を、差別的な意味合いで昆虫や動物に例えるものなど)

ヘイトスピーチ、許さない(法務省)

 

ヘイトスピーチで会社が訴えられた事例も


ヘイトスピーチを巡って、従業員が会社を訴えた事例も確認されています。
東証プライム上場の不動産会社 フジ住宅株式会社は、遅くとも2013年以降、韓国や中国の出身者を「うそつき」呼ばわりし、「在日は死ねよ」といった言葉を含む文書を社内配布したり、インターネット上に投稿するなどしていたといわれています。

パート社員の在日韓国人女性は会社側に一連の行為をやめるよう申し出ましたが、その後も民族差別的な文書は配布され続けたということです。また、一部は創業者である会長が発信したもので、経営トップが配布を指示していたとも報道されています。

一審判決で大阪地方裁判所は、国籍による差別的取り扱いを禁じた労働基準法の趣旨などを踏まえたうえで、

・会社が配布した文書は、在日を含む特定民族を出自に持つ労働者の名誉感情を害すること
・こうした文書の配布が、労働者に対し「使用者からの差別に対する危惧」を抱かせ、内心の静穏を害すること

などと指摘。一連の行為は、女性個人に対する差別的言動とは言えないものの、原告の「差別的取り扱いを受けない人格的利益」を侵害するおそれがあり、社会的に許容できる限度を超え違法と判断し、会社側に110万円の損害賠償を命じました。

しかし、会社は一審判決後も配布を継続したといいます。

控訴審では、会社側の行った文書の配布がヘイトスピーチ解消法の定める「不当な差別的言動」に当たると認定。さらに、差別的な思想を広げない職場環境を作る配慮義務に違反し、原告女性の「人格的利益」を侵害したとして、一審から賠償額を引き上げ(132万円)、配布の差し止めも命じました。

この判決は、最高裁判所が、2022年9月8日に会社側の上告を退ける決定をしたことで確定しています。

 

コメント


近年、特定の民族を差別するような言動は世界規模で取り締まりの対象となっており、会社または役員・従業員等の不用意な発信が理由で、会社の信用を大きく落とすリスクがあります。

法務としても、「差別的な思想を広げない職場環境を作る配慮義務」の一環として、経営陣や従業員への啓もう・リテラシーの向上などに努める必要がありそうです。

 

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