海自隊員、19時間遅刻で1ヶ月の減給処分/従業員の遅刻等への懲戒処分について
2024/01/26   労務法務, 労働法全般

はじめに


初出勤で19時間遅刻した海上自衛隊の男性に、減給1ヶ月の処分が下されたことがわかりました。

自衛隊員の懲戒処分は、自衛隊法や各種通達に則り行われますが、これとは異なり、企業等で働く従業員の遅刻に対する懲戒処分は労働法規や就業規則等により行われるため、注意が必要です。

過去には、企業で遅刻・早退を100回近く繰り返したにもかかわらず、解雇無効になったケースもあります。

 

19時間の遅刻で減給処分


報道などによりますと、「護衛艦さみだれ」に所属する海士長の28歳の男性隊員は、4ヶ月間入校していた術科学校の卒業日である2023年2月17日に、配属先のさみだれへ着隊する予定でした。

しかし、男性隊員は予定の時刻になっても姿を現さず、携帯電話に連絡するも繋がらない状況が続いたといいます。
警察にも捜索願が出されましたが、実は男性隊員は、着隊前に立ち寄った広島県内の下宿先で寝てしまい朝を迎えてしまったとのことです。

翌朝、男性隊員は慌てて出勤したものの、規定より19時間10分遅刻をしたといいます。

男性隊員は1月22日、減給1ヶ月(15分の1)の懲戒処分を受けています。

 

企業は欠勤・遅刻を繰り返す従業員を解雇できるか?


1回の遅刻で1ヶ月の減給処分という、男性隊員にとっては手痛い寝過ごしとなりました。しかし、企業等で働く労働者に対し、同様の処分を行う際には注意が必要です。
では、実際、勤務態度不良が問題となる従業員が社内にいた場合、会社はどのように向き合い対応をしていくべきでしょうか。

前提として、労働者の基本的な義務として、「所定労働日に所定労働時間の中で働くこと」が求められています。
そのため、従業員が無断で欠勤や遅刻・早退を行った場合、所定労働時間の労務の提供がなかったとして、懲戒解雇が認められるケースもあります。

東京プレス工業事件(横浜地方裁判所 昭和57年2月25日)


会社が、半年間に遅刻24回、欠勤14回した従業員を解雇した事例です。会社は、その従業員が10回遅刻をした際、譴責処分とし、始末書を提出させました。しかし、その後すぐに遅刻を繰り返したといいます。会社側は、再度注意をしたものの、再び十数回の遅刻・無断欠勤を繰り返したということです。従業員はその都度、反省の弁を述べたため、会社は訓戒処分にしていましたが、その後も遅刻・無断欠勤が続いたため、最終的に懲戒解雇としました。


裁判所は解雇有効として認めています。


一方で、解雇が無効となったケースもあります。

東神田運送事件(東京地方裁判所 昭和50年9月11日)


東神田運送の従業員が、1年間の出勤日数252日のうち、遅刻早退を99回、欠勤を27回したことで、解雇となりました。しかし、その後の裁判では、解雇が無効との判断が下されています。


東神田運送事件で解雇が無効と判断された背景には、会社側が、遅刻などについて事前の警告を行うことなく反省の機会を与えずに解雇したことが挙げられています。

一口に遅刻といっても、その理由が必ずしも本人の怠惰・特性などによるものではなく、場合によっては、会社でのハラスメントや病気、家庭の事情などやむをえない事情であることも考えられます。

まずは、会社として本人や周囲の従業員などにヒアリング等を行い、原因がどこにあるのかを特定することが重要になります。

もっとも、原因特定の結果、仮に「やむをえない理由は特にない」と判断された場合でも、即座の解雇は避けたいところです。会社として注意や指導などを行い、改善の機会を与え、それでも改善されない場合に解雇を検討するという流れをとることが望ましいとされています。

その理由としては、解雇後に従業員から不当解雇を主張され、訴訟で争うことになった場合、裁判所は、

・注意や指導等、会社がどのような措置を行ってきたのか
・当該措置後の従業員の様子

などから、解雇の相当性を判断するといわれているからです。

そのため、従業員が正当な理由なく遅刻や欠勤を繰り返した記録と共に、会社として注意・指導等の措置を行った記録、措置後の従業員の勤務態度の記録などを証拠として残しておくことが大切です。

 

遅刻した従業員への減給処分は可能?


では、解雇より軽い減給処分の場合はどうでしょうか?その場合は、必ずしも事前の注意・指導等の措置は必要ではなく、基本的に就業規則の懲戒規程に則り進めていくことになります。

もっとも、減給額については注意が必要です。

労働基準法第91条では、「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない。」旨定めています。

ちなみに、ここでいう“平均賃金”とは、「減給処分の直前の賃金締切日から3ヶ月間に支払った賃金の総額」を「減給処分の直前の賃金締切日から3ヶ月間の総日数」で割った金額をいいます。

そのため、例えば、月給30万円の従業員の7月分の給与を減給する場合、以下のように計算することになります。

平均賃金=30万円×3ヶ月÷(30日+31日+30日 ※)=9890円
※日数は、4月が30日、5月が31日、6月が30日


1回の減給限度額=9890円×0.5=4945円


総額の減給限度額=30万円×0.1=3万円


なお、1回の規律違反や問題行動に対し、懲戒処分を行えるのは1回限りとされています。そのため、遅刻を理由に減給処分を行う場合は、1回の問題行動に対し、1ヶ月間のみ可能となるため注意が必要です。
 

コメント


このように、遅刻等に対しては、適切な手順で適切な範囲の懲戒を行うことが重要ですが、処分後の従業員へのケアも必要になります。
過去の問題行動を理由に、周囲からハラスメントを受けるケースも少なくないためです。

とてもセンシティブな懲戒処分問題。今一度、懲戒処分前後の手順・ケアについて社内で確認してみてはどうでしょうか。

 

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