LCC・ジェットスターの労組、団体交渉決裂で一部従業員によるストライキを開始
2023/12/27   労務法務, 危機管理, 労働法全般

はじめに


LCC(格安航空会社)のジェットスター・ジャパン株式会社の労働組合は、時間外労働に関する未払い賃金の支払いをめぐる会社との交渉が合意に至らなかったとして、12月22日から1月7日までの期間、一部従業員による指名ストライキを開始しました。

ジェットスター側は、ストライキによる運航への影響を最小限に抑えるため、代替の要員を確保するとしています。

 



2週間以上のストライキ実施


ジェットスター・ジャパンの労働組合「ジェットスタークルーアソシエーション」によると、組合と会社は、時間外労働の賃金の算出方法の誤り及びそれによる一部賃金の未払いについて団体交渉を重ねてきたといいます。しかし、12月21日の交渉が決裂したことから、ストライキを行うことを決定したとしています。

今回のストライキは、運航便を指定して行うものではなく、特定の社員の特定の時間を指定する「指名ストライキ」によるものだということです。また、ストライキの対象は、国内線と国内を出発する国際線となっています。

報道などによりますと、ストライキに賛同する機長と副操縦士・客室乗務員は合わせておよそ60人。ストライキ初日の12月22日は、機長3人と副操縦士1人、12月23日はパイロット5人、客室乗務員3人がストライキに入ったそうですが、代わりのパイロットを確保できたため運航に影響はなかったということです。

しかし、組合側は今後、ストライキの規模拡大の可能性を示唆しており、影響範囲の拡大による一部運航便の欠航などにつながるおそれもあります。年末年始は帰省や旅行客が多く、飛行機の需要が高くなるため、会社側は非組合員などを動員して運休は避けたいとしています。


ストライキとは


今回、ジェットスターの労働組合が実施したストライキ。ストライキとは、労働環境や賃金などの労働条件の改善などを会社側に求めるために、労働組合が団結して労働を拒否するものです。「団体行動権」(憲法第28条)の一環として労働者に保障された権利であるため、適法に行う限り、ストライキを行った従業員らは民事・刑事上の責任を問われることはありません。

■刑事免責
・刑法第35条: 法令又は正当な業務による行為は、罰しない


・労働組合法第1条2項: 刑法(明治四十年法律第四十五号)第三十五条の規定は、労働組合の団体交渉その他の行為であつて前項に掲げる目的を達成するためにした正当なものについて適用があるものとする。但し、いかなる場合においても、暴力の行使は、労働組合の正当な行為と解釈されてはならない。

■民事免責
・労働組合法第8条:使用者は、同盟罷業その他の争議行為であつて正当なものによつて損害を受けたことの故をもつて、労働組合又はその組合員に対し賠償を請求することができない。


一方で、適法なストライキと認められるためには、満たすべき要件があります。

① 正当な争議行為主体が実施すること
② 労働環境・労働条件の維持・改善が目的であること
③ 手段・態様が正当であること
④ 使用者側との協議を尽くしたこと
⑤ 労働協約を遵守すること
⑥ ストライキが法律で禁止されていないこと

なお、会社は、ストライキを行ったことを理由に労働者を解雇・異動させるなどしてはならないとされています。その一方で、会社はストライキ中の賃金を労働者に支払う必要はありません。


解雇不当で訴訟に発展


過去にはストライキをめぐり企業と従業員がトラブルに発展した事例も確認されています。

■三菱重工長崎造船所事件
会社が、ストライキを行った従業員のストライキの期間中の賃金を減額した際、家族手当についても減額したところ、従業員側が、「家族手当は生活保障的な手当にあたるため、減額できない」と主張して提訴した事案。

最高裁判所は、
・家族手当は労働の対価ではないこと
・家族手当の削減が就業規則で定められていること
・家族手当削減の運用が20年以上続いており、労働慣行となっていること

などから、家族手当の削減は、必ずしも違法ではないとしています。


■橘学苑、教員不当解雇事件
学校における非正規雇用の教員の大量退職などを背景に、元教員らが“教育の質の向上”などを求める団体交渉を行うも決裂。2020年にストライキを実施し、駅前でビラ配りなどを行ったところ、翌年3月に懲戒解雇された事案。

横浜地方裁判所は元教員側の主張をほぼ認める判決を下し、学校側が東京高等裁判所に控訴していたものの、最終的に和解が成立しました。
それに伴い、懲戒解雇は撤回され、合意退職に至っています。また、学校側は「解雇は労働組合法上の不当労働行為だった」として、ホームページに陳謝文を掲載。さらに、元教員側に解決金として計約6600万円を支払ったとされています。


コメント


組合側は、賃金の適法な支払いというコンプライアンスが遵守されなければ安全にも影響が出るとしてストライキを決意したといいます。
一方で、万が一欠航となってしまった場合、コロナ禍で打撃を受けたジェットスターにとって小さくないダメージがのしかかる見通しです。
今後のストライキの動向や労使間の交渉の行方に注目が集まります。

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