金融庁が議決権3分の1超から30%超へ範囲拡大、株式公開買付について
2023/12/20 商事法務, 会社法

はじめに
金融庁はTOBのルールを見直し、株式買い付けの際のTOBの実施義務を拡大する方針であることがわかりました。金融審議会での議論を経て、24年の通常国会で金商法改正案の提出を目指すとのことです。今回はTOBのルールについて見直していきます。
TOBとは
株式公開買付(TOB)とは、通常の証券取引所を経由した買い付けではなく、買付者が「買付期間」「買付予定株式数」などを公告し、不特定多数の株主から直接的に株式の買付を行う場合を言います。通常の株式市場で大量に買注文を出すと株価が上昇してしまい、買付コストが膨れ上がる可能性が高いと言えますが、TOBだと買付者が自ら算定した価格で大量に株式を買い集めることが可能となります。そのため企業買収や自己株式取得などに利用されております。また株主としても知らない間に敵対的買収がなされるよりも対応がしやすく、市場価格よりも3~4割のプレミアが上乗せされた価格で株式を売却できるというメリットがあると言えます。一方で敵対的TOBは失敗の可能性も高く、市場で買い集めるよりもコストがかかるリスクも指摘されております。
TOBの手続き
TOBの流れは大まかに、(1)公開買付の公告・届出書の提出、(2)意見表明報告書の提出、(3)公開買付説明書の作成・交付、(4)公開買付の実施、(5)結果発表、(6)株式の移転となります。株主に公平に売却の機械を与えるため、買付の目的、買付期間、買付価格、買付予定株式数を公告し、届出書を提出します。対象となった企業は公告の日から10営業日以内にTOBに賛成か反対かを表明した意見表明報告書を内閣総理大臣に提出します。買付者は公開買付説明書を作成し株主に交付します。そして売却希望の株主から買付を実施し、希望する株式数の買取ができた場合はTOB成功となり、株式が買付者に移転し、対価が株主に支払われて終了となります。なお買付者は公開買付開始公告をした後は原則として撤回することができません。開始公告や届出書に撤回条件を記載している場合は撤回が可能とされます。
TOB実施が義務付けられる場合
金融商品取引法では、証券取引所外での買付によって、議決権の保有割合が5%を超える場合にTOBによることが義務付けられております(27条の2第1項1号)。株式を5%以上保有すると会社や株価への影響が生じるためと言われております。また買付後の議決権の保有割合が3分の1を超える場合もTOBが義務付けられます。これは5%ルールと異なり証券取引所での取引であっても適用されます。具体的には、証券取引所外で60日間で10名以下の株主から買付を行い3分の1を超える場合、証券取引所でのToSTNeT取引またはJ-NET取引を通じた立会外取引(特定売買)で3分の1を超える場合、3ヶ月の間に全株式の10%超相当の買付を実施し、そのうち5%超を市場外または特定売買で買付た場合とされます。なお3分の1超の取得でも新株予約権の行使や企業グループ内での株式の移転には適用除外とされます。
金融庁の改正案
上記のように現行のルールでは、議決権の3分の1を超える株式を買い付ける場合にTOBの実施が義務付けられております。今回の金融庁の改正案ではこの3分の1(約33%)を30%超に引き下げるとしております。金融庁によりますと、東証上場企業の議決権行使比率は平均約6割にとどまり、議決権の30%を保有していれば大半の特別決議を否決できることとなるとされます。また欧米での主要国もTOBが義務付けられる対象を30%としており国際標準に合わせる意味合いもあるとのことです。これにより情報開示の機会を増やし、少数株主が株式を売るかどうかの判断材料を得やすくなるとされ、市場内で買い手の意図が分からないまま株式を売るタイミングを失ってしまう事態を防ぐとしております。
コメント
以上のように現在金融庁ではTOBのルールの見直しを検討しております。現在では定款変更や株式併合、M&Aなどで必要な株主総会での特別決議を否決させる3分の1超の株式取得の際にTOBを求めておりますが、30%にまで引き下げられる予定です。TOBのルールの本格的な見直しは2006年改正以来17年ぶりとされております。近年海外の投資ファンドによる敵対的買収の事例も多く、2021年には東京機械製作所の株式が市場内で約40%も買い集められた例もあります。敵対的買収防衛策だけでなく、金融商品取引の手続やルールなど金融当局の規制方針の動きについても注視して常に準備しておくことが重要と言えるでしょう。
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