東京都、街路樹植え替えでビッグモーターに約1600万円の納付命令
2023/10/05   コンプライアンス, 刑事法, 自動車

はじめに


ビッグモーターの店舗前の街路樹が枯れていた問題で、東京都は10月3日、植え替えを行う費用など約1600万円の納付を命令しました。今なお続く、ビッグモーターの街路樹問題。警察は器物損壊を視野に捜査を進めています。

 

都から費用負担命令


中古車販売などを行う株式会社ビッグモーター。その店舗付近の街路樹が枯れているという情報を受け、東京都は8月から土壌調査を行なっていました。都内にある店舗のうち、付近に街路樹がある14店舗を調べたところ、9か所から除草剤成分が検出されたということです。さらに、一つの店舗の前からは、除草剤だけでなく、伐採の跡が確認されたといいます。

東京都は10月3日、道路法第58条第1項に基づき、ビッグモーターに対し、この9ヶ所の原状回復等に係る費用負担命令を行ったと発表しました。
費用には9ヶ所の調査費用と、今後東京都が実施予定の植え替えや土壌の入れ替え工事費用全額が含まれているということです。

ビッグモーターに対する費用負担命令について(東京都)

ビッグモーターの街路樹をめぐっては、国道沿いに位置する11店舗の前でも同様の状況が確認されたため、国土交通省が7月下旬に全国34店舗の整備工場に道路運送車両法に基づく立ち入り検査を実施し、土壌調査を行っていました。その結果、福井県、長野県、香川県、愛媛県、福岡県などにある9店舗の前にある街路樹の土壌から除草剤の成分が検出されたということです。

除草剤の成分が確認された場所について、国交省は所轄の警察署に被害届を提出するとともに、原状回復を実施し、原因者が特定された箇所から順次、原因者に対して損害賠償等を請求する予定だと発表しています。

ビッグモーター店舗前の街路樹の調査結果について(国土交通省)

 

器物損壊の疑いでも捜査


警察もすでに動き出しています。報道などによりますと、警視庁と神奈川県警は、9月上旬に都内9店舗及び神奈川県内3店舗を器物損壊の疑いで家宅捜索を行ったといいます。さらに、9月15日には、ビッグモーター本社に対しても家宅捜索を行ない、街路樹問題への本社の関与を調べています。

今回、ビッグモーターが容疑をかけられている器物損壊罪。典型例としては、通行人が店の看板を使用不能にしたり、傷つけるなどの事例が挙げられます。一般的に同罪は、他人の所有物を傷つけるなどにより“損壊する行為”だと認識されていますが、“本来の目的での使用を不能にする行為”も含まれます。

(器物損壊等)
第二百六十一条 前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。


ビッグモーターに関する一連の報道が事実であれば、除草剤散布で樹木を枯らし、街路樹としての本来の目的を果たせなくさせた上、自治体が管理する樹木を伐採するなどの方法で傷付けているため、器物損壊罪が成立する可能性は十分にあるといえます。

同罪が成立するかどうかを分けるポイントの一つとして、“樹木を枯らすことへの故意”を立証できるかという問題があります。器物損壊罪は、故意犯のため、「敷地内の雑草を処理しようとしたら街路樹まで枯れてしまった」といった過失による場合は刑事責任を問うことができないためです。

器物損壊罪は、自然人のみに成立する犯罪で、原則として法人は刑事責任に問えません。そのため、除草剤をまいた従業員自身や(誰かの指示による場合は)指示者において、樹木を損壊する意思があったかどうかが争点となります。

今回の一連の街路樹問題は、ビッグモーターの全国の店舗前で確認されているため、経営陣が関与し組織ぐるみで行われた可能性が指摘されていますが、当事者たちの故意をどこまで立証できるか、今後の捜査に注目が集まります。

 

コメント


今回の街路樹問題をめぐっては、大手スーパーのイオンが、土地の賃貸借契約を結んでいるビッグモーターの店舗「ビッグモーター イオンモールかほく店」前の植栽帯がコンクリートで舗装されていることを確認したと発表しています。

イオン側が店舗前の植え込みが、コンクリート舗装されていることに気がつき、ビッグモーターに聞き取り調査を実施したところ、ビッグモーター側は「承諾を得ずに植え込みを伐採し、コンクリート舗装した」と認めたということです。イオン側は、10月31日付けで土地の賃貸借契約を解約するとしています。

刑事・民事・行政と様々なフィールドで法的問題を巻き起こしているビッグモーターの街路樹問題。今回都が行ったように、今後、街路樹を管理する自治体や企業などから損害賠償請求が次々と行われる可能性があります。コンプライアンス意識を著しく欠いた企業がどのような顛末を迎えてしまうのか、法務としても注視していく必要があります。

 

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