循環取引で会社から2400万円詐取、東京産業の元社員が逮捕
2023/10/04   コンプライアンス, 金融商品取引法, 刑事法, 商社

はじめに


9月29日、機械の総合商社、東京産業株式会社(東証プライム)の元社員が詐取の疑いで逮捕されました。元社員は循環取引という手口で不正な取引を行い、会社からおよそ2400万円をだまし取ったとされています。

 

不正取引で会社に8億円損害か


今回、詐欺容疑で逮捕されたのは、環境・化学・機械事業、電力事業、生活産業事業を展開する機械の総合商社、東京産業の元社員の男(30代)です。報道などによりますと、国際インフラ課に営業担当として勤務していた元社員は、昨年3月、「建築会社から工事現場の足場に使う資材を仕入れ、資材販売会社に売却する」と虚偽の説明をしたうえで、虚偽の請求書や納品受領書を提出するなどして架空の取引を装い、建築会社の口座に会社から約2400万円を振り込ませた詐欺の疑いが持たれています。

不正に振り込まれたお金の一部はマージンとして建築会社が受け取っていましたが、その大半に当たる約2200万円は元社員が実質管理している口座に振り込まれたということです。

これまでの調べでは、2017年ごろから昨年にかけ元社員が主導し、東京産業の約20社の取引先を巻き込んで「循環取引」を約70件繰り返していたと見られています。不正な取引は、総額およそ37億円に上り、東京産業は少なくとも8億円の損害を被ったとみられています。

また、元社員の口座には4億円以上の入金があり、不正取引で得たお金をギャンブルや借金返済といった個人的な支出などにあてていた可能性があるということです。

今回の事件は、昨年4月、国税局の税務調査で指摘を受けた東京産業が内部調査を実施したことから発覚したといいます。元社員は、昨年8月時点で解雇されたとのことです。

 

循環取引とは


今回、元社員が行った循環取引。架空の売上を計上する不正会計に当たる行為で、具体的には、「複数の企業が共謀し、商品の転売や役務の提供を繰り返すことで、取引が存在するかのように装い、売上や利益を水増しする行為」を指します。

循環取引の主なパターンとして、以下の3つが挙げられます。

(1)スルー取引
自社が受けた注文を特に付加価値も加えずにそのまま他社へ回し、帳簿上通過するだけの取引。売上の水増しを目的に、複数企業が共謀して行うことが多いとされています。

(2)まわし取引
複数企業を経由して、商品・製品等の販売を繰り返し、最終的に起点となった企業に商品・製品等が戻ってくる取引。経由する企業が増えるごとに、手数料等が上乗せされ、起点となった企業へ還流される仕組みになっています。

(3)クロス取引
売上の水増しを目的に、取引先と共謀し、互いに自社の商品・製品等を販売し合い、その後在庫を保有し合う取引(在庫を保有せずに他の複数の企業に対し相互スルーするケースもあり)。

 

循環取引の罰則


全ての循環取引が違法となるわけではありませんが、違法と判断された場合、以下の罪に問われるおそれがあります。

(1)金融商品取引法違反
有価証券報告書などの開示書類の虚偽記載(金商法第197条1項)。

罰則として、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金が科されます。
また、法人の代表者などが虚偽記載を行った場合、法人に「7億円以下の罰金」が科されます。

(2)特別背任罪
「自己や第三者の利益を図る目的で、任務に背く行為をし、会社に財産上の損害を与えた場合」に成立する特別背任罪(会社法第960条1項)。
循環取引による損失が計上され又は同取引が金商法上の粉飾決算を構成する場合、担当役員において同罪が成立する可能性があります。

罰則として、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金が科されます。

(3)詐欺罪
循環取引との認識がない会社から仕入れ金などをだまし取った場合、詐欺罪(刑法第246条)が成立する可能性があります。

罰則として、10年以下の懲役が科されます。

 

コメント


循環取引やキックバック取引などの社員による不正取引。会社への国税局の税務調査を契機にかなりの確率で発覚するとされています。
取引開始基準の厳格化や取引権限の分散など、会社として不正行為がしにくい環境を整えると共に、発覚時のリスクの大きさ、発覚する可能性の高さなども社内で周知していくことが重要になりそうです。

 

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