漫画「小悪魔教師♡サイコ」が同時期に別出版社から出版、先発漫画の漫画家が出版社を提訴
2023/09/05 知財・ライセンス, 著作権法, エンターテイメント

はじめに
電子書籍の配信を行う出版社から依頼を受けて行った小説原作漫画の作画。ほどなくして、同小説を原作とする漫画が別の出版社から別人の作画で出版されたことでトラブルが生じました。先に出版した漫画(以下、「先発漫画」)の漫画家は、後発漫画の出版を止めなかった“先発漫画の出版社”を提訴しています。
ほぼ同一の漫画が制作
今回問題となったのは漫画「小悪魔教師♡サイコ」。三石メガネ氏が執筆した小説を原作としており、株式会社ぶんか社が漫画家・合田蛍冬氏に作画を依頼し制作されたものです。2021年の出版以来、ぶんか社の電子月刊誌で連載されており、電子書籍プラットフォームの年間人気ランキング漫画部門で3位にランクインするなど、今年6月までに少なくとも7億円売り上げるヒット漫画でした。ネット広告にも頻繁に登場していたことで作品は広く知られていたといいます。
そんな中、原作小説の管理会社であるtaskey株式会社は、2022年9月、同小説を原作とする縦スクロール型漫画を自社制作し出版(先発漫画は横スクロール型)。タイトルも同じ「小悪魔教師♡サイコ」を冠しました。
2021年11月に後発漫画の制作の話を聞いた合田氏は、自身の漫画の出版社であるぶんか社に対し、「連載中の後発漫画出版は読者を混乱させる」として、後発漫画を制作するtaskeyに制作中止を働きかけるよう要求したといいます。
しかし、ぶんか社は、「原作小説の管理会社が原作をどう使うは自由であり、後発連載が始まることは確定事項である。自社には止める権利がない。」などとして、働きかけを行うことはなかったといいます。
訴訟までの経緯
後発漫画による模倣をおそれた合田氏は、ぶんか社に対し「せめて後発漫画のネームなどを事前確認したい」と申し出。ぶんか社とtaskeyの協議に基づき、taskeyから提出されたキャラクター表および数話分のネームを確認したといいます。しかし、ぶんか社の法務をして、「翻案権侵害どころか、ほぼトレース」と指摘されるほど類似点が多かったことから、ぶんか社はtaskeyに対し修正を申し入れ。taskeyからは、先発漫画を見て制作した結果、酷似してしまったとの説明と共に謝罪の意を示す文書が提出されたといいます。
謝罪後は、後発漫画での模倣行為は減少したということですが、先発漫画の構図やコマ割りを参考にしたとみられるシーンなどが度々登場。その度に、合田氏が修正依頼のための資料作成を無償で行っていたといいます(taskey側は、後発漫画への合田氏のクレジット掲載を拒絶)。
その後、後発漫画の出版スピードが先発漫画を上回っていたことから、2022年12月には後発漫画が先発漫画のストーリーを追い越すことがほぼ確実に。望まぬ後発漫画に自身の漫画がネタバレされる事態に心を痛めた合田氏は、2022年12月24日、自身のブログで、「望んでいない後発漫画の連載が始まり、全く同じ原作のため、自分の描いた本件漫画を参考に制作されており非常に困っている」と書き記し、taskeyからの謝罪文を掲載したということです。
ぶんか社によると、原作小説の管理会社でもあるtaskey側がこのブログ投稿を問題視。先発漫画の連載中止が決定しました。また、今年1月に発売予定だった先発漫画の単行本も発売延期となっています。
さらに、ぶんか社側は合田氏に対し、
・taskey側が合田氏を名誉棄損で提訴する可能性が高いこと
・事態の収拾には、taskeyおよび小説原作者である三石メガネ氏への謝罪が必要であること
などを説いたといいます。
これを受けて、合田氏は弁護士に相談。2023年1月から合田氏の代理人、taskey側代理人、ぶんか社の代理人の3者で紛争解決に向けた話し合いを行ったそうですが、合田氏は、8月29日投稿のブログにて「ぶんか社を提訴した」旨、発表しました。
なお、合田氏は、今回の騒動で7ヶ月以上の休載を余儀なくされ、連載再開の目途も立たないことから、雇用していた漫画制作アシスタントをやむなく解雇したといいます。また、内定していた「ピッコマアワード2023」の受賞もトラブルが原因で叶わなかったとしています。
合田氏の主張と請求内容
報道などによりますと、先発漫画の出版にあたり、合田氏はぶんか社と出版契約を締結していたといいます。合田氏によると、契約書内には、「同一又は類似の著作物や同一題号の著作物の出版を禁止する」条項が入っていたそうで、原作小説の作者である三石メガネ氏も同内容の契約をぶんか社と締結していたと聞いていたそうです。
そのため、合田氏は、「ぶんか社は当該条項を根拠に三石メガネ氏に対し、後発漫画の制作差し止めを要求できる立場にあったのでは」と主張しています。
訴訟では、合田氏はぶんか社に対し、3つの内容に関しそれぞれ1円ずつ合計3円の損害賠償を請求しています。
(1)後発漫画の連載開始に関して十分な説明、報告を行わなかった債務不履行
(2)「合田氏がtaskeyから提訴される可能性がある」と虚偽の報告を行ったこと
(合田氏がtaskey側に直接確認したところ、「謝罪は求めたものの訴訟をチラつかせた事実はない」との回答を得たそうです)
(3)代理人間での協議開始が決定した後、ぶんか社から当てつけのようなメールが送られ、精神的苦痛を感じたこと
コメント
一般的に、出版社が原作小説の作者に対して有する契約上の権利を行使するか否かは、出版社に委ねられていると考えられます。今回、合田氏は、ぶんか社が後発漫画の出版差し止めに向けて動かなかったことに不満の意を示していましたが、訴訟の請求内容ではこの点に触れていないようです。現状の法律で、この部分を法的に主張することの難しさを感じたためと想像されます。
一方で、合田氏の代理人弁護士も語っていたように、今回のような同原作・同タイトルの後発漫画が時期を違えずに出版されることが安易に許容された場合、先発漫画の漫画家の保護があまりに欠ける結果となりかねません。
近年、サイト上でユーザーからオリジナル小説を募り、有望な小説を電子漫画化して出版するビジネスが流行しています。そのため、今後も小説を原作とした漫画の出版は増加すると考えられます。
内閣府が発表したクールジャパン戦略でも重要視される漫画文化の発展。そのためには、クリエイターである漫画家が安心して創作に打ち込める環境が不可欠です。小説原作漫画の制作に対する適切なルールの策定に向け、一石を投じる訴訟となることが期待されます。
【関連リンク】
訴訟の経緯漫画(「ねとらぼ」より)
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