メガネスーパー前社長らに対し責任追求の動き、利益相反取引とは
2023/08/17 商事法務, コンプライアンス, 情報セキュリティ, 個人情報保護法, 会社法

はじめに
「メガネスーパー」を運営する「ビジョナリーホールディングス」の前社長が業務委託や店舗譲渡で不適切な行為を行っていた疑いが生じております。現在責任追求に向けて調査を進めているとのことです。今回は会社法が規制する利益相反取引について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、ビジョナリーホールディングスでは昨年12月に前代表取締役である星崎尚彦氏による不適切な行為の疑いが報告され第三者委員会を設置して調査を進めていたとされます。第三者委員会の調査報告では、星崎氏は「星組経営会議」を結成し、同氏の実質的影響力が及んでいる企業にコールセンター業務を委託したり、またメガネスーパーの店舗を元従業員に譲渡した疑いがあるとのことです。同社はコールセンターの委託先の変更や刑事・民事での責任追及を視野に調査を進めているとされます。また同社会計監査人であったPwCあらた監査法人はこれらの問題により四半期報告書の結論を表明せず、解明の目処が立たないとして契約更新しないとしており、同社会計監査人は監査法人アリアに交代するとのことです。
取締役と利益相反取引
会社法356条1項によりますと、取締役が自己または第三者のために会社と取引しようとするとき(2号)、または会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外との間において会社と取締役との利益が相反する取引をしようとするときを(3号)、いわゆる利益相反取引として規制しております。利益相反取引に該当する場合はその取引に関して重要な事実を開示し、会社の承認を得る必要があります(356条1項、365条1項)。会社の損害のもとに取締役が利益を図ることを防止する趣旨です。承認は取締役会設置会社では取締役会決議で、取締役会非設置会社では株主総会の普通決議によります。取締役が会社の所有する物を購入したり、取締役等の債務を担保するために会社の不動産に抵当を設定するとった場合が典型例と言えます。逆に取締役が会社に無償で不動産を提供したり、無利息で金銭を貸し付ける行為は該当しません。
会社の承認を得なかった場合
会社の承認を得ずに利益相反取引を行った場合、その取引は会社と当該取締役との間では無効とされますが、善意の第三者に対しては対抗できないと言われております(最判昭和46年10月13日)。そしてこの無効については、会社が取締役に対して主張することはできますが、取締役から会社に対して主張することは許されないとされます(最判昭和48年12月11日)。また利益相反取引によって会社に損害が生じた場合、承認の有無を問わず、当該取引を行った取締役、取引を決定した取締役、承認決議に賛成した取締役は任務を怠ったものと推定されます(423条3項)。なおこの推定規定は監査等委員会が承認していた場合は適用されません(同4項)。
利益相反に関する注意点
会社の取締役または代表取締役が他社でも取締役や代表取締役に就任している場合、その会社と取引を行う際にも利益相反が問題となってきます。たとえば自社の取締役が代表取締役を務める他社に事業や財産を売却したりする場合は利益相反となり会社の承認決議が必要となります。自社と取引先である他社の両方で同一人が代表取締役を務める場合は両社で承認決議が必要となります。また自社の代表取締役が同じく代表取締役を務める他社の株式を引き受ける場合も利益相反に当たり、承認決議が必要と言われております。自社の代表取締役が取締役を務める他社に不動産を現物出資して株式を引き受ける場合も同様とされております。
コメント
本件で第三者委員会の報告によりますと、ビジョナリーホールディングスの前社長である星崎氏が実質的に影響力を及ぼしている業務委託先に業務委託して不要な支出をさせたり、店舗を元従業員に譲渡させたりした疑いがあるとされます。これらが事実であった場合、利益相反取引に該当する可能性があり、星崎氏や関与した役員等は責任追求がなされる可能性もあると言えます。以上のように会社と役員の直接的な取引だけでなく、役員が経営する会社など実質的に役員自身と取引していると言える場合も会社法上規制が及びます。特に小規模な同族経営の企業グループではこのような問題が生じやすいと言えます。逆に会社にとって負担が無い場合は利益相反とはならない場合が多いと言えます。どのような場合に会社の承認が必要となるかを確認して周知しておくことが重要と言えるでしょう。
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