任天堂が株式分割などの方針を開示、投資単価の引き下げについて
2023/06/29   商事法務, 会社法

はじめに

 任天堂は26日、上場企業が義務付けられる投資単価の引き下げについての今後の方針を発表しました。株式分割などにより株式の流動性を高めるとのことです。今回は株式の投資単価の引き下げについて見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、任天堂は2022年10月に普通株式1株につき10株の割合で株式分割を実施し、それにより投資単価が約600万円から60万円に引き下げたとされます。その上で今月26日、投資家層の拡大と株式の流動性を高めるための有効な施策を発表しました。今後も多面的な視点で慎重に検討し株式分割などで投資しやすい単価を確保していくとのことです。任天堂株は現在1株あたり約6300円~6500円あたりを推移しております。また任天堂は単元株式制度を採用しており、100株1単元となっていることから現在の投資単価は約63万円~65万円となっております。

 

上場会社と投資単価

 東京証券取引所では現在、個人投資家が投資をしやすい環境を整備するために、望ましい投資単位として5万円以上50万円未満という水準を明示しております。そして国内上場企業に対して、望ましい投資単位を超える株式が売買されている場合には事業年度経過後3ヶ月以内に50万円未満の水準に移行するための「投資単位の引き下げに関する考え方及び方針」の開示を義務付けているとされます。東証によりますと、現在投資単位が50万円未満の上場会社は全体の94.6%(3593社)となっており、ほとんどの上場会社は水準を満たしているとのことです。また東証では投資単位の引き下げ手段として株式分割を紹介しており、それにより少額での分散投資やNISAに組み入れやすくなるとしております。

 

株式分割とその手続

 株式分割は1株を複数の株式に細分化し、1株あたりの株価を引き下げる効果があります。種類株式発行会社では特定の種類株式のみを分割することも、それぞれの種類株式ごとに異なる分割比率とする分割も可能です。その手続としては、取締役会設置会社では取締役会決議で、取締役会非設置会社では株主総会の普通決議で、(1)分割比率、(2)基準日、(3)効力発生日、(4)種類株式発行会社である場合は分割する株式の種類を決定する必要があります(会社法183条1項、2項)。なお株式分割に合わせて、その比率で発行可能株式総数を増加させる定款変更を行う場合、本来は株主総会特別決議を要するところ取締役会決議で可能となっております(184条2項)。ただしこれには現に2種類以上の株式を発行していない場合のみの特例となっており、既に複数の種類株式を発行している場合は原則どおり株主総会が必要となります。

 

株式併合と手続き

 1つの株式を複数に分割する株式分割に対し、複数の株式をそれより少ない株式とする株式併合という制度も存在します。こちらは逆に株式単価が下がりすぎ、株主の管理コストが上がった場合などに利用されます。種類株式発行会社は株式分割と同様に特定の種類株式だけ併合することも、種類株式ごとに併合比率を変えることも可能です。手続きとしては株主総会の特別決議で、(1)併合割合、(2)効力発生日、(3)併合する株式の種類、(4)発行可能株式総数を定めることとなります(180条2項、309条2項4号)。株式分割よりも株主に与える影響が大きいため株主総会を要するということです。また法令・定款に違反する株式併合の差し止め請求(182条の2)や反対株主の株式買取請求の制度も置かれております(182条の4)。また株券発行会社は効力発生日の1ヶ月前までに株券を提供するよう公告し株主に通知することが必要です(219条1項)。

 

コメント

 任天堂は昨年の株式分割以前は1単元あたりの投資単位が約600万円と非常に高額になっており、個人投資家は投資しにくい状況となっておりました。そこで1株を10株とする分割を行い投資単位を約10分の1まで引き下げました。現在は63万円付近で推移しております。しかし上記のように東証が推奨する望ましい投資単位は5万円~50万円となっており、今なお高い水準といえます。今後さらに1株を2株とするなどの株式分割を行い、投資単位が引き下げられるものと予想されます。以上のように株価と株式数は相関関係にあり、高くなりすぎた場合は分割を、下がりすぎた場合は併合を行うことによって適切な株価に修正することが可能です。しかし両者は似た制度でも必要な手続きがかなり異なっており注意が必要です。これらの手続きを今一度確認しなおしておくことが重要と言えるでしょう。

 

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