知床観光船事故で遺族が社長を提訴、安全配慮義務とは
2023/06/07 コンプライアンス, 危機管理, 民法・商法

はじめに
北海道の知床半島沖で昨年4月に起きた知床遊覧船の沈没事故で、死亡した甲板員の曽山聖さん(当時27)の両親が運航会社と社長を相手取り、計約1億1900万円の損害賠償を求め提訴していたことがわかりました。重過失を超えて故意が認められるとのことです。今回は安全配慮義務について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、昨年4月23日、北海道知床半島沖で遊覧船が沈没する事故が発生し、乗員・乗客合わせて26名全員が死亡・行方不明となったとされます。沈没したのは「有限会社知床遊覧船」が所有する小型観光船「KAZUⅠ」で当日は強風注意報、波浪注意報が発表されており、ウトロ漁港沖合の波高は14時には3mに達していたとのことです。13時18分頃、同船の船長から携帯電話で「カシュニの滝の近く、船首浸水、沈んでいる」と海上保安庁に通報があり捜索が開始され、翌朝5時頃に海上に浮かぶ乗客3名が発見され、5月2日には14名の死亡が確認されました。沈没したKAZUⅠには整備不良や無線の不備、また船員の経験不足などが指摘されており、国交省北海道運輸局は同年6月、同社の事業許可取消処分を発表しております。
安全配慮義務とは
本件でも原告側が主張している安全配慮義務とはどのようなものでしょうか。一般に安全配慮義務とは、「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務」と言われております(最判昭和50年2月25日)。企業と顧客との契約、従業員との雇用契約、国と国家公務員との関係など様々な法律関係で、それに付随する義務として問題となってきます。かつて不法行為責任では3年の消滅時効が経過してしまっていたとう事案で、消滅時効期間が10年であった債務不履行として責任追求するために考えられた法理と言えます。この判例以降、雇用契約等で広く安全配慮義務が認められることとなり、様々な場面で損害賠償請求がなされるようになりました。
安全配慮義務の特徴
安全配慮義務は上記のように「特別な社会的接触の関係に入った当事者間」に発生する信義則上の義務とされていることから、直接の契約当事者ではなくともそれと同視できる場合には安全配慮義務の発生が認められることがあります(最判平成3年4月11日)。たとえば取引相手である元請け会社の下請けとなっている会社の従業員などが挙げられます。このような特別な関係に入った者は互いに信義則上の義務を負うことになります。そして安全配慮義務の具体的な内容は、それぞれの事案、具体的状況に応じて個別的に判断されると言われております。また安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求では、その具体的な内容やそれに違反する具体的事実については原告側に主張・立証する責任があるとされております(最判昭和56年2月16日)。
安全配慮義務違反に関する裁判例
近年安全配慮義務違反が問題となった事例として、スーパーマーケットの床に落ちていた天ぷらで足を滑らせて転倒し、利用客が怪我をして店側に約140万円の賠償を求めたというものがあります。東京地裁は、店舗運営者に利用客に対する安全管理義務を信義則上負っており、店舗が混み合う時間帯では従業員によるレジ周辺の安全確認を強化、徹底して床に物が落ちないようにすべき義務があったとしました(東京地裁令和2年12月8日)。一方で二審東京高裁は、混み合っていても足元の落下物を回避することは特に困難ではないこと、落下物が落ちていた時間が短時間であったこと、従業員からは死角になっていたこと、従業員がこれを除去することは困難であったことなどから、安全配慮義務違反を否定しました(東京高裁令和3年8月4日)。同じ事情でも見方や評価の仕方で結論が変わったものと言えます。
コメント
本件で知床遊覧船は気象状況が悪く、他の同業者が運航しておらず、また地元の漁業関係者からも出航すべきではないと言われる中、運航を強行して沈没事故を起こしたとされます。また船の整備不良や無線の不備、ベテラン従業員を解雇した上で社長含めて実務経験が乏しかった状況での運航が指摘されております。原告側は「重過失どころか故意が認められる」として提訴しております。以上のように安全配慮義務は本件のような企業と顧客との間だけでなく、従業員や取引相手の下請け事業者など様々な場面で問題となります。安全配慮義務違反は債務不履行だけでなく不法行為責任も生じさせることがあり、その具体的内容も業種や状況などによって個別的に決まることとなります。どのような場合にどのような責任が生じるかを判例を踏まえて今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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