パタゴニア日本支社、労組代表のパート従業員に雇い止め通告
2023/05/15 労務法務, 労働法全般

はじめに
2019年にパートとして入社し、来年春に通算5年の在職期間を迎える予定だった女性従業員が、勤務先のパタゴニア・インターナショナル・インクの日本支社(登山用品や衣料品などを扱うアメリカ企業)から人事評価を理由に年内で雇い止めとする通告を受けたことがわかりました。報道などによりますと、女性は「無期転換は働き手の権利であるにも関わらず、人事評価制度と結びつけて雇い止めの理由とするのは不当」の旨主張しているとのことです。
経緯
女性は、2019年4月からパート従業員(6ケ月更新の有期労働契約)として札幌市の直営店舗で勤務をしており、2024年春には、入社5年目を迎える予定でした。
元来、労働契約法上、同一の会社で有期労働契約が更新されて通算5年を超えた労働者は、その申込みにより、期間の定めのない労働契約、いわゆる「無期労働契約」に転換できる旨定められています(法第18条)。
しかし、入社時の面接の際、女性は「この契約は5年を超えて更新されない」と説明されたといいます。背景には、パタゴニア日本支店がパート従業員に対して設けている5年を限度とした“不更新条項”の存在がありました。
女性は、採用当時、パタゴニアでの就業意欲の高かったこと、パート従業員としての契約終了後に正社員になる方法も提示されたことなどから、あまりピンと来てはいなかったものの入社を決めたといいます。
しかし、その後、同僚のパート従業員が不更新条項により雇い止めになった現実を目の当たりにしたことから、札幌地域労組に個人加盟し団体交渉を行っています。その際、会社側はこの不更新条項に関し、
・パート従業員を定期的に入れ替えて組織の新陳代謝を図ること
・パート従業員の成長を評価し、5年を超えられる人材を厳しく選別すること
・パート従業員の契約更新への期待権をコントロールし、労働契約法第18条に対応すること
などを目的に定められたもので違法ではない旨説明したといいます。
女性は状況を打破すべく、社内のスタッフに呼びかけ、2022年の7月にパタゴニアユニオンを結成。代表に就任しました。
しかし、女性は今年4月下旬、勤務先の店長との面談で「人事評価制度に基づくパフォーマンスが基準に満たない」として雇用契約を更新しないと言われたといいます。具体的には、現在の雇用契約が終了する6月末か、少なくとも次回更新の契約が終了する12月末で退職するように会社側から伝えられたということです。
雇い止めについて
労働契約を契約期間中に解消する「解雇」とは異なり、「雇止め」 は企業が労働者の意向にかかわらず有期労働契約の更新をせず、期間満了に伴い契約を終わらせることを指します。雇い止めに関しては、いくつかルールが設けられています。
まず、有期労働契約が3回以上更新されていたり、1年を超えて継続して雇用されている労働者については、契約更新しない場合に少なくとも契約期間が満了する30日前までに雇い止めの予告をしなければなりません。
また、雇止めの理由は、「契約期間の満了」以外の理由とすることが必要です。例えば、前回の契約更新時に、本契約を更新しないことが合意されていたり、契約締結当初から、更新回数の上限を設けていたこと、業務を遂行する能力が十分ではないと認められたこと、違反行為や無断欠勤等の勤務不良などが例として挙げられます。
なお、過去の裁判例を見る限り、裁判所は主に以下の判断要素を元に、契約関係の状況を総合的に判断しています。
・従事する仕事の種類・内容・勤務形態(業務内容の恒常性・臨時性、業務内容についての正社員との同一性の程度)
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(1)業務内容または契約上の地位が臨時的(臨時社員など)
(2)契約当事者が期間満了により契約関係が終了すると明確に認識している
(3)更新の手続が厳格に行われている
(4)同様の地位にある労働者について過去に雇止めの例がある
コメント
パタゴニアは、「故郷である地球を守るためにビジネスを行う」という企業理念のもと、環境問題に熱心に取り組む一方、「勤務時間中でもいい波がくればサーフィンに行っても構わない」という柔軟なフレックスタイム制度を敷いていることでも有名な企業です。
明確なビジョンを持ち、シンプルに“地球にも従業員にも優しい”会社に聞こえますが、その前提として、従業員個々人が自分が遊びに行きたい時間に遊びに行けるよう、やるべき仕事を責任を持って効率的に遂行することが求められるといいます。その意味では、従業員に高いハードルを課している、超実力主義を是とする会社ということができます。
外資系企業においては、日本の労働法制への理解が十分でないまま、本国に寄せた労務管理を行う事例が見聞きされます。
各国の労働者の歴史・文化・制度を度外視し、世界各国で単一のスタイルでの労務管理を実現するのは、かなりの困難を伴います。本社と支社の法務で密なコミュニケーションを取りながらの、慎重なすり合わせが必要になります。
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