経済産業省、「企業の人権問題」の対応ポイントや事例等を公表
2023/04/10   海外進出, コンプライアンス

はじめに


経済産業省は4月4日、企業における人権尊重の取り組みを後押しするべく、「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料(以下「実務参照資料」)」を公表しました。この資料は、企業側が、昨年9月に政府が策定した「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を活用するにあたり、実務レベルで何をすべきかをイメージさせる内容となっています。
具体的には、“人権方針の策定”や“人権デュー・ディリジェンス”の最初のステップに位置付けられる「人権への負の影響の特定・評価」について、検討すべきポイントや実施フローの例を示したものとなっています。
 

企業に求められる対応


今回発表された実務参照資料では、まず、人権方針の策定・公表→定着→実践のプロセスを踏むことの重要性を説いています。

1.人権方針の策定
記載することが考えられる項目として、実務参照資料では以下が例示されています。

(1)人権方針の位置づけ
自社の経営理念や行動指針等と人権方針の関係を検討し、両者の一貫性を担保することが人権方針の社内における定着につながるとしています。

(2)適用範囲
人権方針をグループ会社にも適用させるのか、方針のうち自社のみに適用させた方がよい部分はないか等、慎重に検討し、適用範囲を明確にする必要があります。

(3)期待の明示
取引先を含む関係者の協力を仰ぐべく、自社の事業・製品・サービスと直接関連する可能性があるステークスホルダーに対し、人権尊重を期待する旨の記載を行うことが考えられます。

(4)国際的に認められた人権を尊重する旨のコミットメントの表明
国連指導原則や OECD 多国籍企業行動指針等、人権を尊重していく企業の責任について言及した国際文書への支持等を記載することが考えられます。それにより、人権尊重責任を果たしていく自社の姿勢を明確にし、社内外のステークホルダーの理解を得ることに繋がるとしています。

(5)人権尊重責任と法令遵守の関係性
国の法令を遵守しているだけでは人権尊重責任を十分に果たせないケースもありえます。そのようなケースで、国際的に認められた人権を最大限尊重する方法を追求する旨、明記する必要があります。

(6)自社における重点課題
自社のサプライチェーン等が影響を与える可能性のある人権を網羅的に把握し、加えて、より深刻な人権侵害が生じ得るステークホルダーやその人権を認識することが重要になります。人権方針の策定の際は、それらに対する取り組みを自社の重点課題として記載することが考えられます。

(7)人権尊重の取り組みを実践する方法
絵に描いた餅で終わらせぬよう、人権尊重の取り組みを実践する方法を明記する必要があります。例えば、人権デューデリジェンス の実施、ステークホルダーとの対話の実施、人権方針の実施状況を監督する責任者の配置(責任者名+責任の内容含む)を記載することが考えられます。

 

2.人権侵害リスクの特定・評価
企業は、人権デューデリジェンスの第一歩として、自社およびグループ会社、サプライヤー等における人権侵害リスクを確認し、そのリスク評価を行う必要があるとしています。具体的なステップは以下です。

(1)リスクが重大な事業領域の特定
事業分野、製品・サービス、地域、個別企業の切り口から、どのような人権侵害リスクが指摘されているか等を、社内関連部門および社外専門家と意見交換しながら確認することが考えられます。

(2)人権侵害リスクの発生過程の特定
社内資料(クレーム情報等)、管理者等に対する質問票調査、従業員へのヒアリング、現地調査、ステークホルダーとの対話などを通じて、人権侵害リスクがどのような過程が発生するかを特定する必要があります。

(3)人権侵害リスクと企業の関わりの評価及び優先順位付け
①自社が人権侵害リスクを引き起こしているか
②人権侵害リスクを助長しているか
③人権侵害リスクが自社の事業・製品・サービスと直接関連しているか

と3段階で、人権侵害リスクと自社との関わりを評価したうえで、各人権侵害リスクの深刻度を評価。深刻度の高さ、発生頻度の高さなどを元に優先順位をつけることが考えられます。

 

企業における人権問題


企業はビジネス活動を通じて社会貢献することが求められていますが、その一方で、引き起こされる人権問題。企業における人権問題として、強制労働、人種差別、性的暴力、子どもの労働などが挙げられます。

■労働者、地域社会の健康と安全
労働者が働く場所での化学物質の使用、危険な機械、また深海漁業のような過酷な労働環境、さらには伝染病なども含まれます。漁業では人身取引を伴う労働も報告されたということです。

■児童労働
国際労働機関(ILO)によれば、世界の児童労働の60%は農業の分野で行われているということです。放課後の多忙な時間に家族経営の農場を手伝っている子どもや、危険な環境で長時間労働に従事し、家族と過ごせない場合もあるということです。

■地域社会、先住民族などの強制移住
強制労働の使用や単一栽培、商業・大規模漁業、乱獲、換金作物への土地利用、水使用量、排水・廃棄物の影響により、地域社会やその伝統的な生計に深刻な影響を与えることがあります。そうしたことから、先住民族を含む、もともと暮らしていた人々を強制移住させることも問題となっています。

こうした問題に対処するため、企業は人権方針を策定し、その方針に基づいて人権に配慮したビジネス活動を行い、社会的責任を果たすことが求められます。この点、アメリカやヨーロッパなどの一部の国では人権尊重の対応を企業に義務化する法整備が進められています。

 

業種ごとのリスク


今回、経済産業省は別添えされた参考資料1で、以下の業種を挙げ、各業種ごとに注意するべき事柄などを記載しています。
それぞれの分野における、課題や具体的にどのような問題が考えるのかが説明され、それらに対する管理・緩和策などが盛り込まれていますので、以下の業種の企業は特に要注目です。

農業・漁業
化学品・医薬品
林業・伐採
一般製造業
インフラ
鉱業・金属
石油・ガス
発電事業
サービス業
公益事業・廃棄物処理業

 

コメント


国際的に関心の高まる、人権問題。企業には各国の法令遵守を超えた対応が求められています。それに伴い、法務に求められる役割も拡大して行くことが考えられます。自社の人権方針をどのように策定し、メンテナンスして行くか。緻密な検討が必要になります。
 

【関連リンク】
責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン
責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料(経済産業省)
 

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