ファミマTOBで東京地裁が価格決定、株式取得価格について
2023/03/31 商事法務, M&A, 会社法

はじめに
2020年に実施されたファミリーマートのTOBで、株主であるRMBキャピタルなどが取得価格が安すぎるとして公正価格の決定を求めていた裁判で、東京地裁が適正水準より300円安いと判断していたことがわかりました。少数株主の利害が適切に反映されたとは言い難いとのことです。今回は株式取得の適正価格について見ていきます。
事案の概要
ブルームバーグの報道によりますと、ファミリーマートの株式の過半数を保有していた伊藤忠商事は2020年7月から1株あたり2300円でTOBを実施し、その後株式併合を経てファミリーマートを完全子会社化し上場廃止としました。その際、ファミリーマートのアクティビストであった米RMB社はTOBには応募せず、その後のスクイーズアウトには応じたものの、価格が安すぎるとして裁判所に公正価格の決定申し立てを行ったとされます。ファミリーマート側が設置していた特別委員会による算定では1株あたり2472円~3040円とされていたため、同委員会ではTOBには賛同しつつも応募は推奨しないとしていたとのことです。これにより少数株主らが価格設定に不満を持っていたとされております。
完全子会社化とMBO
上場会社を完全子会社化した上で上場廃止とする手法として、一般的にTOB(株式公開買い付け)を行った上で特別支配株主による売渡請求、または株式併合によるスクイーズアウトが行われております。以前は株式併合は反対株主の買取請求が無いなど少数株主の保護に欠けるとされ、全部取得条項付き種類株式に変更した上で残存株式を取得するという手法が利用されておりましたが、平成26年改正により株式併合にも買取請求や価格決定申し立ての規定が新設され、それ以降は株式併合が利用されております。なおTOBにより議決権の保有割合が90%以上に達すれば特別支配株主として株式売渡請求が可能となります(会社法179条)。この制度では株主総会は必要とせず、取締役会決議で可能です。
MBOの手続き
株式併合によるスクイーズアウトを行うに先立ち、TOBを実施する場合はまず公開買付開始公告を行います。ここで公告されるのは買付者の氏名・社名、住所、買付条件、目的、価格、買付予定数、買付期間、対象会社などです。次に内閣総理大臣への届出書の提出、意見表明報告書の提出を行います。そして公開買付最終日の翌日にTOBの結果について公告し、公開買付報告書を内閣総理大臣に提出し、その写しを対象会社と証券取引所に送付します。その後株式併合については株主総会の招集と、併合に関する資料の本店備え置き(182条の2)、株主総会決議と株主への個別通知(181条)、効力発生と完了後の資料の備え置き(182条の6)、端株の買取となります。この際、反対株主は株式買取請求を行うことができ(182条の4)、20日前までに株主に通知する必要があります(同3項)。その際価格について効力発生日から30日以内に協議が調わないときは会社または株主は裁判所に価格決定申し立てをすることができます。
買取価格の決定
一般的にTOBでの買付価格とその後のスクイーズアウトでの買取価格は同一の価格を基準とし、その旨を開示資料等で明らかにしておくとされております(経産省 企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者により企業買収に関する指針)。そして価格決定に関して裁判例は、取得日における公正な価格をもって取得価格を決定すべきとし、諸般の事情を考慮した裁判所の合理的な裁量に委ねることが相当とした上で、取得価格については取得日における株式の客観的価値に、今後の株価上昇に対する期待を評価した価額を合算したものとしました(東京高裁平成20年9月12日)。また最高裁は、一般に公正と認められる手続きによりTOBが行われ、その後同額でスクイーズアウトがなされた場合は特段の事情がない限りTOB価格と取得価格は同額が相当としました(最判平成28年7月1日)。
コメント
本件で東京地裁は、公正価格を実際のTOB価格より高い2600円としました。特別委員会が2300円は安いとしており、妥当ではないと表現すればTOB自体に賛同できなかった可能性があるとし、TOB価格は多数株主と少数株主の利害を適切に調整された結果とは言い難いとしました。一般的に取得日における客観的価値は特段の事情がなければTOB公表前1か月の平均値とされますが、本件では特別委員会が示していた価格よりも低かった点などが特段の事情として考慮されたのではないかと考えられます。以上のように株式買取価格は原則的には一定期間での平均値を基礎としますが、諸般の事情も考慮されます。MBOを予定している場合は、これらの裁判例も含めて準備しておくことが重要と言えるでしょう。
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