公取委が工機ホールディングスに勧告、買いたたきとは
2023/03/28   コンプライアンス, 下請法

はじめに

 公正取引委員会は27日、電気工具大手「工機ホールディングス」(港区)に対し、下請法違反で再発防止を求める勧告を出していたことがわかりました。下請事業者に原価を下回る単価を受け入れさせていたとのことです。今回は下請法の買いたたきについてみていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、同社は2020年12月から21年1月にかけて製品部品の製造委託先である下請け事業者である個人事業主から単価の引き上げを求められた際、実際には具体手的な単価の引き上げ計画がないにもかかわらず、段階的に単価を引き上げる旨の説明をすることで納得させ、製造原価を下回る単価を受け入れさせたとされます。公取委はこのような行為が下請法の買いたたきに該当するとして再発防止を求める勧告を出しました。下請け事業者が提示していた見積額と実際に支払っていた代金の差額は302万9268円とされ、差額分はすでに支払われているとのことです。同社では勧告内容を周知し、社内研修を行うなどコンプライアンス強化に努めていくとしております。

 

下請法の規制

 下請法では、親事業者に対して一定の義務と禁止行為が定められております。まず親事業者は書面の交付義務、書類の作成・保存義務、下請け代金の支払い期日を定める義務、遅延利息の支払い義務が課されます(3条~5条)。そして禁止事項として、受領拒否、代金支払い遅延、代金減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、報復措置、有償支給原材料等の対価の早期決済、割引困難な手形の交付、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直しが挙げられております(4条各項各号)。書面の交付義務などに違反した場合は50万円以下の罰金となっており(10条)、禁止事項に違反した場合には勧告が出されることとなります(7条)。また公取委は必要と認める場合は報告の徴収や立入検査を行うこともできます(9条)。

 

対象事業者

 下請法の対象となる事業者は資本金の規模と取引の内容で決まることとなります。まず(1)物品の製造・修理委託、政令で定める情報成果物・役務提供委託の場合は、親事業者の資本金が3億円超で下請事業者(個人含む)の資本金が3億円以下、または親事業者側の資本金が1千万円超~3億円以下で下請事業者側が1千万円以下が対象となります。(2)上記以外の情報成果物・役務提供委託の場合は、親事業者側の資本金が5千万円超で下請事業者側が5千万円以下、親事業者側が1千万円超~5千万円以下で下請事業者側が1千万円以下が対象となっております。これらの該当する場合に上記の義務や禁止が適用されることとなります。

 

買いたたきとは

 上でも述べたように下請法が適用される親事業者にはいくつもの禁止行為が規定されております(4条)。その中の1つである「買いたたき」とは、「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対して通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」とされております(同1項5号)。通常支払われる対価とは、同地域、同業他社での一般的な代金などいわゆる市場価格や市価のことです。この通常支払われる対価との差額、対価決定の方法や経緯、決定された対価の内容、原材料や仕入れ価格、人件費などのコストの動向など差別的な契約内容となっていないかを総合的考慮して、買いたたきに該当しているかを判断すると言われております。実際にあった事例として、景気悪化を理由に親事業者が下請事業者に代金引き上げを要請し、景気回復後に下請事業者から代金を戻す要請がなされたにもかかわらず、十分な協議をすることなく拒否した事例や、下請事業者にISO取得を要請し、取得しなければ取引停止を通知したにもかかわらず、取得のコストを考慮せずに代金を据え置いた事例などが挙げられます。

 

コメント

 本件で公取委によりますと、工機ホールディングスは同社の電動工具の付属品の製造を委託している個人事業者から単価の引き上げが求められたにもかかわらず、今後段階的に引き上げていくと説明して原価割れの単価を受け入れさせたとされております。原価割れの代金は通常支払われる市価からはかけ離れており、虚偽の説明で納得させていることからも対価決定の経緯が差別的と言え、「買いたたき」該当する考えられます。以上のように原材料の高騰などで下請事業者から値上げの要請があった際、十分な協議をすることなく、市価よりも著しく低い価格に据え置く行為は違法となります。また現行法では資本金1000万円以下の親事業者は適用外となっておりますが、フリーランスや個人事業主の保護を拡大すべく、その点についても法改正の動きが出ております。個人事業主などに下請や外注をしている場合はこれらの点も含めて、今一度規制の概要を確認しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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