まもなく施行、改正民法の概要について
2023/03/16   不動産法務, コンプライアンス, 民法・商法, 法改正

はじめに

令和3年の改正民法が今年4月1日から施行となります。相隣関係や共有制度、所有不明不動産の管理制度、相続制度などについて改正されております。今回は改正点について概観していきます。

 

法改正の経緯

 近年所有者が不明な土地や、所有者が判明しても所在不明で連絡がつかないといった事態が増加しているとされます。平成29年の国交省の調査でも所有者が不明となっている土地の割合が22%に上るとされております。その背景には都市部への人口の流入や人口減少、高齢化の進展によって地方を中心に土地の所有意識が希薄化し、遺産分割や相続登記もされず放置されるといった事情があるとのことです。そういった土地の場合、所有者や現在の権利関係を調査するのに多大な時間と費用を要し、また所有者等が判明しても数が多すぎたり連絡不能となり、国や自治体、事業者による土地の利用の妨げとなっております。そこでこのような土地の利用の円滑化を図るべく不動産登制度の見直し、土地所有権の国庫帰属制度の創設、そして民法の見直しがなされました。今回はこのうちの改正民法について概観します。

 

相隣関係の見直し

 現行民法では、土地の所有者は境界またはその付近で、障壁または建物を築造し、または修繕するために必要な範囲内で隣地の使用を請求することができます(209条1項)。しかし隣地の使用請求の具体的な意味が判然とせず、またこれら以外の目的に使用することができるのかも不明確と言われてきました。そこで目的も障壁、建物その他の工作物の築造、収去、修繕、境界票の調査・測量、越境した枝の切り取りと拡充・明確化されます(改正民法209条1項)。そしてこれらの目的のために必要な範囲で隣地を使用する権利を有することが明確化されます。一方で隣地所有者や使用者の利益も配慮して、日時・場所・方法は損害がもっとも少ないものを選ぶ必要があります(同2項)。隣地使用に際してはあらかじめ目的、日時、場所、方法を通知する必要があり、急迫の事情があるなど通知が困難な場合は事後、遅滞なく通知が必要となります。また隣地から竹木の枝が越境して来た場合には切除するよう催告をし、それでも切除されない場合はこちら側で切除できるようになります(改正民法233条3項)。急迫の事情がある場合や竹木の所有者不明の場合も同様です。

 

ライフラインの設置・使用権

 ガスや水道、電話回線、インターネット回線などのライフラインを自己の土地に引き込むにあたり、他人の土地または他人の土地に設置された設備を使用しなければ引き込めないといった場合に、あらかじめその目的、場所、方法を通知することによって使用することができるようになります(改正民法213条の2)。公道の下にある水道管までは他人の土地を通すか、他人の土地の水道管に繋ぐ必要があるといった場合です。ただし設備設置工事のために他人の土地を一時的に使用したり、また他人の設備と接続する工事のために一時的に使用できなくなったといった場合にはその分の損害についての償金を支払う必要があります(同4項)。

 

共有関係の見直し

 現行民法では、各共有者はその持ち分に応じて共有物を使用することができ、共有物に変更を加える場合は共有者全員の同意で、管理行為の場合は共有者の持ち分の過半数で、保存行為は各共有者が単独で行うことができるとされます(249条~252条)。しかし何代にも渡って相続が繰り返され、遺産分割なども行われていない場合など、共有者が膨大な数に上ることもあります。そのような場合には他の共有者の同意を得ることも困難と言えます。そこで共有者の過半数の合意で行える管理行為の範囲を拡大し、またその範囲に入る賃借権の設定も明確化されました。まず共有者全員の同意を要する変更行為でも、軽微なものについては管理行為に含まれるとされ、過半数の同意で可能となります(改正民法251条、252条)。また山林については10年、それ以外の土地は5年、建物は3年、動産は6ヶ月という、いわゆる短期賃貸借の期間を超えない賃借権の設定も管理行為となります(同4項)。また共有物を実際に使用する共有者は、自己の持ち分を超える使用については他の共有者に対価を償還する義務を負い、善管注意義務をもって使用することが必要となります(改正民法249条2項、3項)。

 

コメント

 以上のように近年の高齢化や人口の都市部集中により、地方を中心に空き家や放棄された土地が散見されます。所有者不明の土地が22%に上ると上でも述べましたが、その原因の66%は相続登記の未了で、残りは住所変更登記の未了と言われております。商業登記と異なり不動産登記は原則として義務ではなく権利とされ、登記をするかどうかは権利者の自由となっております。そのため疎遠となった地方の土地は相続が生じても放置されやすいとされます。しかしそれにより、国や自治体、事業者などがそのような土地を利用するにしても、権利者不明といった事実が大きな障壁となっております。そこで近年では民法や不動産登記制度などが大きく見直されます。なお来年令和6年4月からは相続による登記も義務化され、不要となった相続地などは一定の手続きのもと国有化される制度が創設される見通しです。事業で土地の購入を検討している場合や自社の土地の周辺関係に関して、これらの改正の流れを把握しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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