精養軒が株式併合し上場廃止へ、株式併合の手続きについて
2023/03/14 商事法務, 会社法

はじめに
フランス料理店を運営する精養軒が10日、定時株主総会で株式併合を行い、その後上場廃止すると発表しました。単元株式数も廃止とのことです。今回は株式併合の手続きについて見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、精養軒は新型コロナウイルス感染拡大による業績低迷で店舗改装などの改革が必要と判断したとされます。しかしこれによる株価への影響が不可避であると判断し上場廃止に踏み切ったとのことです。同社は大株主である三井不動産や元会長が設立した財団法人などに議決権を集めるとし、残りの株式については株式併合を行うことによってスクイーズアウトするとされます。併合割合は12万2500株を1株に併合するとのことで、買取価格は1株1200円とされます。同時に単元株式数の定めも廃止し、5月19日をもって上場廃止となる予定です。非公開化後は徹底したコスト削減と新規事業の拡充を図る方針とのことです。
株式併合とは
株式併合とは、複数の株式をまとめてそれよりも少数の株式にする行為を言います。3株を1株にしたり、10株を1株にするといった具合です。市場で増えすぎた自社の株式を併合して、管理費用を節減したり、下がりすぎた株価を上げて1株あたりの価値を増加させるといったことが期待できます。これに対して逆に株式を細分化し数を増加させる行為を株式分割と言います。こちらは上がりすぎた株価を下げて投資家が保有しやすくし、流通を促進するといった効果があります。このように市場に流通する株式の数や価格、その管理費用を調整するために利用されてきた株式併合・株式分割ですが、近年、株式併合は組織再編の手段として利用されることが多くなってきました。会社を完全子会社化したり、流通する株式を回収して上場廃止とする際に、残った少数の株主をキャッシュアウトする手段として利用されております。以下具体的な手続きを見ていきます。
株式併合の手続き
株式併合を行うには株主総会での特別決議が必要となります(会社法180条2項、309条2項)。決議事項は、(1)併合の割合、(2)効力発生日、(3)種類株式発行会社である場合は併合する株式の種類、(4)効力発生日における発行可能株式総数となっております。併合は同種の株式でしか行えず、たとえば甲種類株式と乙種類株式を併合するといったことはできません。また公開会社の場合、発行可能株式総数が併合後の発行済株式総数の4倍を超えるときは、4倍以下となるようにする必要があります。そして効力発生日の2週間前までに株主および登録株式質権者に通知または公告します(181条1項、2項)。株券発行会社である場合は効力発生日の1ヶ月前までに株券提供公告も必要です(219条1項)。また株主総会の2週間前または株主への通知公告のいずれか早い日から効力発生日後6ヶ月間、本店に法務省令で定める事項を記載した書面を備え置く必要があります(182条の2第1項)。併合によって1株に満たない端数が生じる場合は反対株主は会社に買取請求を行うことができます(182条の4)。
単元株式数との関係
単元株式数を定めている場合、単元株式数に併合割合を乗じた数が整数となる場合は株式買取請求ができないとされます。たとえば100株を1単元としている会社が、100株を1株に併合するといった場合は株主への影響が小さいことから、単元未満株の買取だけでよいということです。なお単元株式制度も一定の数の株式を持っている場合に議決権が与えられることから、株式併合と同様に株主への影響が大きく、採用する場合は株主総会の特別決議を要することとなります(188条1項)。なお1株を100株に分割して100株を1単元とするなど、実質的に株主の議決権数に影響を及ぼさない場合は株主総会の特別決議は不要で、取締役会決議でよいこととなります(191条)。単元株式数の定めを廃止する場合も同様に取締役会決議だけで可能です。
コメント
本件で精養軒は4月27日開催予定の定時株主総会で今回の株式併合議案を諮り、承認決議を経た後、1株に満たない端株を買い取ってキャッシュアウトする予定となっております。その後は上場廃止となり再建を図ることとなります。以上のように近年ではM&Aや完全子会社化からの上場廃止を行う手段の1つとして株式併合が利用されております。本来は市場での流通数や株価の調整に使われておりましたが、本件のようにキャッシュアウトの手段として利用されることが多くなってきており、組織再編の一種とも言えることから、平成27改正で他の組織再編行為と同様に事前・事後開示などの手続きが必要となりました。また特別支配株主による売渡請求などの制度も用意されております。コロナ禍などによる業績悪化で再建が必要となる場合は、これらの制度を駆使して迅速に事業のコンパクト化とコストカットを図っていくことが重要と言えるでしょう。
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