鉄道車両等の撮影の可否、物の"肖像権"について
2023/03/03   知財・ライセンス, 著作権法

はじめに
先日、一般の鉄道ファンが撮影し自身のWEBサイト上で公開していた列車の写真を東武鉄道の子会社が無断で使用して訴訟となった事例を取り上げましたが、列車の撮影自体に問題はないのでしょうか。今回は鉄道など、いわゆる物の肖像権について見ていきます。
問題の所在
鉄道の車両や建物など、野外に存在する物の写真撮影に問題はないのか、いわゆる物の「肖像権」が認められるのかが問題となります。そもそも肖像権とは、「個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容貌・姿態を撮影されない自由」と言われており、正当な理由なく撮影されることは憲法13条の趣旨に反して許されないとされております(最大判昭和44年12月24日)。また芸能人などの有名人には、プライバシー的側面だけでなく、その著名性から顧客誘引力などの経済的価値が認められます。これをパブリシティ権と呼び、これをみだりに侵害すると肖像権だけでなくパブリシティ権の侵害となるとされております。このように肖像権は人を対象とした権利で、鉄道車両や建物などの物は対象とはしていないといえます。それでは著作権やパブリシティ権についてはどうでしょうか。以下具体的に見ていきます。
野外の物と著作権
著作権法46条によりますと、美術の著作物で、野外の場所に恒常的に設置されているものまたは建築の著作物は、彫刻増製、建築による複製、販売目的とした複製などの場合を除き、いずれの方法によるかを問わず利用することができるとされております。つまり野外に設置されている物については、同じものを造ったり、複製してお土産にするといった場合以外は自由に利用でき、当然写真撮影やその写真を広告などに利用することも認められているということです。また樹木に関する裁判例ですが、自己の所有する楓の木をカメラマンに撮影され出版されたとして差止と損害賠償が求められた訴訟で裁判所は、所有者は有体物として排他的に支配する権利を持つにとどまり、写真撮影や複製物の出版などの排他的権利を包含するものではないとして棄却しました(東京地裁平成14年7月3日)。つまり野外に存在する物については原則として写真撮影をしても著作権を侵害するものではないということです。
著作物の要件
ここで今一度、著作権法で保護される著作物の要件を見ておきます。2条1項1号によりますと、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」としております。「思想又は感情」とは、人間の精神活動全般を指すと言われており、「創作」とは創作者の何らかの個性が表現されていることで足りるとされております(東京高裁昭和62年2月19日)。また「表現」とは、文字や記号、線、面、色彩、音階などの具体的表現手段にって外部に表されているを意味すると言われております。つまり基本的には美術的に創造された建造物以外の一般的な建物はこれに該当せず、上で述べた46条以前に著作権自体が発生していないと考えられます。鉄道の列車についても同様と言えます。
物のパブリシティ権
それでは人間以外の物にもパブリシティ権は認められるのでしょうか。これが認められるとすれば、著名な建物や列車の写真を使用するにも問題が生じることとなります。この点に関し、競走馬の名称のパブリシティ権が問題となった事例で最高裁は、商標法、著作権法、不正競争防止法等が一定の範囲で一定の要件のもとに排他的権利を付与している反面、国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約しないよう、各法律がその要件や権利の範囲・限界を明確にしている趣旨をかんがみると、法令等の根拠がなく、権利侵害等の範囲も明確になっていない現時点においては物のパブリシティ権の存在は認められないとしました。あくまでもパブリシティ権は人間の人格権に由来する権利の一内用で、人間以外の物には現時点では存在しないということです。
コメント
以上のように野外の建物や鉄道車両などの写真撮影、およびそれらの利用は私的、または業としてを問わず現時点では法的に問題となるものではないと言えます。美術的な建物であっても野外に恒常的に設置されている以上、同じものを建築するといったことをしない限り問題となりません。また著名な建物や鉄道車両の顧客誘引力を利用するために写真を使ってもパブリシティ権侵害にはならないと言えます。なお東京スカイツリーや一部有名な新幹線については商標登録がなされておりますが、商標権侵害行為とは、他人が登録した商標やそれと類似する商標を他人の商標権が及ぶ分野について使用する行為を言います。つまり商標的に使用して初めて侵害となるのであって、単に写真撮影をしただけでは何ら問題とはなりません。このように知的財産権に該当するのかしないのか、またどのような場合に侵害となるのかは権利によってとても複雑なものとなっております。今一度、自社の広告に使用できるものとそうでないものを確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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 得重 貴史
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 箕輪 洵 弁護士(弁護士法人GVA法律事務所/第一東京弁護士会所属)
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