全国初のカスハラ条例適用|配送業者への土下座要求を認定 ー三重県桑名市
2025/07/02   コンプライアンス, ハラスメント対応法務, 行政法, サービス

はじめに

三重県桑名市は6月30日、全国初のカスタマーハラスメント防止条例に基づき、配送業者に土下座を要求するなどした加害者の行為をカスハラと認定しました。

認定は、条例施行後初とのことです。今回はカスタマーハラスメント条例について見ていきます。

 

事案の概要

報道などによりますと、今年4月、カスハラ行為を行ったとされる加害者は、配送を頼んだ荷物が破損していたことに腹を立て、配送業者に「馬鹿野郎、嘘つき」などと暴言を吐き、土下座を迫ったとされます。

また、弁償金についても過大に請求していたとされ、桑名市は配送業者からの相談を受け、弁護士や有識者でつくる市の対策委員会で審議に入っていました。

審議では、業者が提出した録画映像や加害者の陳述内容を検証し、カスハラに該当すると判断したとのことです。市は6月30日、加害者に警告書を発送し、カスハラ行為を繰り返すなど改善しない場合は氏名の公表に踏み切る方針とされています。

 

カスハラとは

厚労省のカスハラ対策企業マニュアルによりますと、カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客等のクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであり、当該手段・態様により労働者の就業環境が害されるものと定義されています。

顧客や取引先からのクレーム全般をカスハラと言うのではなく、過剰な要求を行ったり、不当な言いがかりをつけるといった悪質なものを指すということです。

クレームの手段・態様が社会通念上の相当性を逸脱している場合だけでなく、要求そのものが妥当性を欠く場合には、手段・態様が妥当なものであってもカスハラに該当するとされています。

そして、「労働者の就業環境が害される」とは、身体的・精神的苦痛により能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、就業する上で看過できない程度の支障が生じることとされています。

 

カスハラ防止条例

近年、顧客等からのカスハラ被害の増加が叫ばれる中、今年4月1日から東京都や群馬県、北海道などでカスハラ防止条例が施行されました。

東京都のカスハラ防止条例では、カスハラは労働者を傷つけるだけでなく、商品やサービスを受ける環境に悪影響を及ぼすものとして、社会全体で対応しなければならないとの理念のもと、何人もカスハラを行ってはならないとした上で、ガイドラインや対応マニュアルの作成が行われています。

現段階では罰則や処分等は規定されておらず、主に都によるカスハラ防止のための啓発や教育、相談や助言、支援事業の情報提供などが規定されています。

一方、三重県桑名市のカスハラ防止条例では、カスハラ行為の禁止や事業者等の責務に加え、市へのカスハラ認定の請求や市による警告、さらには氏名公表が規定されています。

なお、この場合でもカスハラ行為者に意見を述べる機会を与え、また委員会の意見も聴取するとされています。

 

カスハラ行為が抵触しうる法律

カスハラは、上記のようにカスハラ防止条例に違反するだけでなく、場合によっては他の法律、主に刑法に抵触する可能性があります。

具体的には、暴力行為が伴う場合は暴行罪(刑法208条)や傷害罪(204条)、暴力行為に至らなくとも危害を加える旨を告知すれば脅迫罪(222条)、それにより財物を交付させた場合は恐喝罪(249条1項)、強要罪(223条)などに該当する可能性があります。

また、店舗等に不当に居座った場合も不退去罪(130条)や威力業務妨害罪(234条)、それ以外にも侮辱罪(231条)や名誉毀損罪(230条)なども考えられます。

さらに、軽犯罪法でも日常生活の道徳規範に反する軽微なものが処罰の対象とされており、カスハラはこれらにも抵触する可能性があると言われています。

 

コメント

本件で、問題となっている行為は配送業者に対し、「馬鹿野郎、嘘つき」などの暴言行為や過大な弁償金の要求行為であったとされます。

これらはいずれも、要求を実現するための手段として社会通念上の相当性を逸脱したものと認められる可能性が高いと言えます。実際、桑名市の対策委員会は、録画映像などを確認した上でカスハラと認定しました。

以上のように、近年ではカスハラ行為に対して条例で取り締まっていく動きが出てきています。

その内容は自治体によって違いがあるものの、いずれもカスハラ行為を定義した上で禁止し、事業者や自治体にカスハラ防止への措置や啓発などが求められ、さらには被害業者からの求めによって認定行為や警告、氏名開示などまで盛り込まれている場合があります。

どのような行為がカスハラに該当するのか、またその場合どのような対応を取るのかを、社内だけでなく顧客や取引先にも周知していくことが重要です。

 

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