三菱商事が純利益1兆円超えで自社株買い、自己株式取得について
2022/11/10 商事法務, 会社法
はじめに
三菱商事は8日、2023年3月期の連結純利益が1兆300億円になる見通しとし、700億円分の自社株買いを行うと発表しました。発行済株式の1.5%にあたる2200万株を予定とのことです。今回は自己株式取得について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、三菱商事は近年の円安や資源高の影響により天然ガス事業の純利益が26%増で1320億円、自動車事業が25%増の1330億円、不動産運用会社の売却益も840億円に登るとされます。同社は株主還元と資本構成の適正化を目的として同社普通株式2200万株を上限とする自己株式取得を発表しました。取得価額の総額は700億円を上限とし、取得期間は2022年11月9日から2023年3月9日とのことです。想定為替レートは1ドル=141円で取得方法は東京証券取引所における市場買付とされ、これにより取得した自社株の全ては同年3月31日をもって消却するとされます。中西勝也社長は「稼いだキャッシュでどのように成長戦略を進めるか」と述べているとのことです。
自己株式取得とは
自己株式取得(自社株買い)とは、自社が発行し、市場に出回る自社株を株主から買い戻すことを言います。その目的は様々ですが、自社株買いにより市場に出回る株式が減少し、出資された資本が払い戻されるという性質があります。そのため以前の商法では自己株式の取得は原則として禁止されておりました。しかし現在では幾度もの法改正を経て自己株式取得は一定の要件の下で許容され、自社株をそのまま自社で保有する、いわゆる金庫株も解禁されております。とは言え現在でも自己株式取得は無制限ではなく、その場面は限定されており、譲渡制限株式を譲渡承認せず自社で買い取る場合、取得請求権付株式の取得、取得条項付株式の取得、譲渡制限株式の相続人からの取得、所在不明株主の株式売却による取得、単元未満株の取得、組織再編による取得、そして株主との合意による取得等に限られます(会社法155条)。さらに自己株式取得は原則として分配可能額の範囲内という財源規制を受けることとなります(461条)。
自己株式取得のメリット・デメリット
自己株式の取得には様々なメリットがあります。まず市場に溢れ、価値が下がっている場合、自社株を買い戻すことによって流通量が減少し株価を上昇させる効果があります。これにより自社の株主が保有する株式の価値も上昇することから株主への還元にも繋がります。また市場に溢れる自社株をある程度回収することによって敵対的企業による取得を防ぐことができ、敵対的買収防衛策にもなります。自社株を多く保有していると、合併や会社分割などの組織再編に際して新たに株式を発行しなくても、保有する自社株を対価として交付することができ、スムーズな組織再編が可能となります。一方デメリットとしては会社資本の流出による資金繰りの悪化のリスクがあります。また株主への払い戻しの原資が利益剰余金である場合、税務上「みなし配当」となり、株主に課税される場合もあると言われております。このように自社株買いには様々なメリットがある反面、一定のデメリットも存在します。
自己株式取得の手続き
株主との合意による自己株式の取得は、原則として株主総会の普通決議による授権決議に基づき、取締役会決議によって実行する必要があります(156条、157条2項、348条1項)。そしてその旨株主全員に通知(公開会社では公告)し、希望する株主が会社に申し込みます(158条、159条)。なお特定の株主からのみ取得する場合は株主総会の特別決議を要します(160条1項)。この場合でも原則として他の株主は買い取りの対象に自己も加えるよう株主総会の5日前までに請求できます(同3項、施行規則29条)。なお市場取引または公開買付によって自己株式を取得する場合も原則として株主総会の普通決議を要しますが、定款に定めることにより取締役会決議のみで行うことができます(165条2項)。この場合は株主への通知は不要となります。
コメント
本件で三菱商事はかねてからの資源高や円安の影響もあり、2023年3月期連結純利益が約1兆300億円となる見通しとされます。年間配当も前記比5円増の155円に引き上げ、株主還元として700億円を上限に自己株式を取得します。取得方法は東京証券取引所での市場買付となっております。同社定款では7条で市場取引等による自己株式取得は取締役会決議による旨定められており、株主総会を経ずに行うことができます。これにより株価の上昇が見込まれ、株主の保有価値が増加する見通しです。以上のように自社株を買い取ることによって市場における自社株の流通量を調節することができ、株価も引き上げることができます。またある程度自社株を保有しておけば、手間のかかる新株発行を行うことなく組織再編での対価に当てることができます。自社の株価や流通量、財源などを配慮しつつ、様々な手段を柔軟に検討していくことが重要と言えるでしょう。
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