消費者庁がTシャツ納品遅延で公表/消費者安全法とは
2022/10/28   コンプライアンス, 消費者契約法

はじめに

 学校の文化祭などで使用する「クラスTシャツ」の納品トラブルが相次いでいるとして消費者庁は27日、「クラTクリエイト」などを運営する「KOMATO」(横浜市)の社名を公表しました。寄せられた相談件数は100件にのぼるとのことです。今回は消費者安全法について見ていきます。

 

事案の概要

 消費者庁の発表によりますと、KOMATOは「クラTクリエイト」等のショップ名により、学校の体育祭や文化祭で使われるクラスTシャツと呼ばれるオリジナルデザインのTシャツを販売していたとされます。注文の際にはLINEでの友だち登録をする必要があり、LINEメッセージのやりとりによりデザインや枚数、使用日時等を伝え、使用日までに納品されることを確認して注文を確定するとのことです。しかし使用日が近づいても納品されず、消費者が同社に確認しても「本日発送です」などと返信し、期日までに納品されると印象を持たせるも、直前になって「空輸の遅れ」等のためなどとして納品されないケースが多発しているとされております。各地の消費生活センターに苦情が多数寄せられ、消費者庁が調査を行ったところ、このような消費者の利益を害する行為が確認されました。

 

消費者安全法とは

 平成21年の消費者庁設置に伴い、消費者の生活の安全を確保するために制定された法律、それが消費者安全法です。各地方公共団体の消費生活センターに寄せられた消費者被害の情報を消費者庁に集約し、消費者庁が国民に情報を提供し、また被害を出した事業者に行政措置を行うことによって被害拡大を防止することを目的としております。同法が対象としている消費者事故は、製品等の安全性欠如による生命・身体の被害、虚偽・誇大広告、取引被害など多岐にわたります。平成24年改正で多数消費者財産被害が追加され、事業者が消費者に示した内容や取引条件が実際と著しく異なる取引被害の場合でも消費者庁が行政措置を出すことができるようになっております。このように消費者安全法は消費者庁が所管する消費者被害に対する包括的で基本的な根拠法令と言えます。

 

消費者事故

 上でも触れたように消費者安全法が対象としている消費者事故は多岐にわたりますが、大きく生命身体への被害と取引被害に分けられます。前者については事業者が提供する商品または役務について「消費安全性」を欠くことにより消費者の生命または身体に被害が出た場合を指します。消費安全性とは、商品等に通常予見される使用または利用方法による場合において通常有すべき安全性を言うとされます(2条4項)。消費者が普通の使い方をしている場合に求められる安全性ということです。そして後者は虚偽・誇大広告、契約の際に故意に事実を告げず、また不実を告げること、また契約の締結、その履行、消費者による契約の撤回や解除に際して、欺罔、威迫、困惑させることなどが挙げられます。また正当な理由なく債務の履行を拒否または著しく遅延する行為も含まれます。事業者が消費者に虚偽の内容を告げたりするなどして製品の納入を遅延するといった場合が該当します。

 

行政措置

 消費者庁は消費者被害などに関する情報を得た場合、同種または類似の被害の発生を防止するため消費者に注意を喚起する必要があるときは各都道府県や市町村に情報を提供して公表することができます(38条1項)。他に消費者被害の発生や拡大を防止するために実施し得る法律がある場合は、その事務を所掌する行政庁に速やかな措置の実施を求めることができます(39条1項)。また商品や役務に消費者安全を欠くことによる重大な事故が発生した場合は、事業者に必要な点検、修理、改造、安全な使用方法の表示など必要な措置を命じることができ(40条1項)、またこのような商品等については6ヶ月以内の期間を定めて販売や引き渡しの禁止を命じることができます(41条1項)。これに違反して譲渡等を行った場合は3年以下の懲役、300万円以下の罰金またはこれらの併科となっております(51条1号)。不当な取引についても措置命令を出すことができるとされます(40条4項)。

 

コメント

 本件でKOMATOはLINEを通じてクラスTシャツの注文を受け、使用日までに納入できるかのように消費者に伝えていたとされます。しかし実際には期日が近づいても納入されず、「本日発送です」などと一旦は間に合うかのように思わせ、最終的に「空輸の遅れ」などとして納入が間に合わないことが多発していたとされます。クラスTシャツのような、学校の文化祭や体育祭で使用する商品は、その当日に間に合わなければ意味がないものであることから、債務の履行の著しい遅延として消費者事故と判断されました。以上のように消費者安全法では、景表法や消費者契約法といった個別の法令で対象となっていないような消費者被害でも公表や措置を命じることができるとされております。有利誤認表示や虚偽・誇大広告などではなく履行遅滞などであっても場合によっては違法となることがあります。消費者への納入や説明などの対応に不誠実な点等はないか、確認しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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