任天堂がサービス利用規定を改定、カスハラ対策について
2022/10/14 ハラスメント対応法務, 民法・商法

はじめに
任天堂は12日、修理サービス利用規定を改定し、新たに「カスタマーハラスメントについて」の項目を追加すると発表しました。理不尽なカスハラへの対応を示したものと言えます。今回はカスハラ対策について見ていきます。
事案の概要
任天堂の行った発表によりますと、同社は修理サービス利用規定に新たな項目として「カスタマーハラスメントについて」を追加し、顧客が同社製品のアフターサービスを希望した際、「ご要望を実現するための手段として、社会通念上相当な範囲を超える行為を行うことはご遠慮ください」と明記したとされます。さらに該当行為として、威迫、脅迫、威嚇行為、侮辱、人格を否定する発言、プライバシー侵害行為、保証の範囲を超えた無償修理の要求、合理的理由のない謝罪要求、同じ要望やクレームの過剰な繰り返しや長時拘束などを例示しております。また悪質な場合は警察や弁護士に相談のうえ適切な対処を行うとも記載されているとのことです。同社では顧客も従業員も笑顔でいるためのルール作りとしております。
カスハラとは
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、一般的には顧客からの嫌がらせ行為と言われますが、厚労省では、顧客等からのクレーム、言動のうち、要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するために手段・態様が社会通念上不相当なものであって、それにより労働者の就業環境が害されるものとされております。顧客からのクレームなどは、商品やサービス等への改善を求める正当なもので会社にとって有益なものがある一方、その範囲を超える不当なものはカスハラに該当するということです。具体的には暴言や脅迫、土下座の強要、暴力、長時間居座る、不当な金銭、物品の要求などが挙げられます。これらの行為はカスハラであると同時に刑法上の犯罪にも該当するものと言えます。
カスハラの要件
厚労省のマニュアルによりますと、カスハラに該当する要件として(1)要求の内容が妥当性を欠く場合、(2)要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な場合が挙げられております。要求の内容が妥当性を欠く場合とは、商品・サービスに瑕疵・過失が認められない場合、要求内容が企業の提供する商品・サービスと関係がない場合とされております。そして要求内容の妥当性に照らして、手段・態様が不相当となる場合として、商品交換の要求、金銭補償の要求、謝罪の要求(土下座除く)とされております。そして要求内容の妥当性にかかわらず不相当とされる手段とは、暴行、傷害などの身体的な攻撃、脅迫、中傷、侮辱などの精神的攻撃、威圧的言動、土下座の要求、継続的・執拗な言動、差別的言動、性的言動、従業員への攻撃などとされます。これらは仮に会社側に過失があったとしても許されない行為と言えます。
企業が取り組むべきカスハラ対策
厚労省のマニュアルによりますと、企業が取り組むべきカスハラ対策としてカスハラを想定した事前の準備と実際に起こった際の対応が挙げられます。前者としてはカスハラに対する企業・組織としての姿勢、基本方針を示し、従業員への周知・啓発すること、従業員のための相談対応体制の整備、対応マニュアルの整備、従業員の教育と研修が挙げられております。後者として、カスハラに該当するかを判断するための事実確認の正確な把握、被害を受けた従業員への配慮措置、同様の問題が発生することを防ぐための定期的な見直しや改善、そして相談者のプライバシーを保護するための必要な措置を講じ、従業員に周知するとともに相談したことなどを理由として不利益な取り扱いをしてはならないことも周知すべきとしております。
コメント
本件で任天堂は威迫や脅迫、侮辱、プライバシー侵害、保証の範囲を超えた無償修理の要求など社会通念上過剰なサービス提供の要求といった7つのカスハラ行為を例示した上で、アフターサービス要求としてのこれらの行為はご遠慮いただくよう規定に明記しました。厚労省のマニュアルが示すカスハラ行為とその対応に準拠したものと言えます。近年厚労省の調査では過去3年間にカスハラを受けた割合は15%とセクハラの10%よりも多い数値となっており、またコロナ禍に関連してマスクなどのコロナ対応に応じずに入店するなどのカスハラも目立っているとされます。カスハラ行為が違法として損害賠償の支払いや有罪判決が出た裁判例もあります。どのような行為がカスハラに該当するか、カスハラに対しては会社はどのように対応するのか、また従業員はどうすべきかをマニュアル化し社内外に周知しておくことが重要と言えるでしょう。
【参考リンク】
・弊社製品の修理サービス規程/保証規程の更新について(任天堂株式会社)
・カスタマーハラスメント対策 企業マニュアル
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