KADOKAWA前会長、東京オリンピック・パラリンピックを巡る贈賄容疑で起訴
2022/10/07 コンプライアンス

はじめに
10月5日、東京五輪・パラリンピックをめぐる汚職事件につき贈賄罪で起訴された前会長(起訴後、会長職を辞任)の角川歴彦容疑者について、株式会社KADOKAWAの現社長である夏野剛氏らが会見を開きました。会見にて、外部調査チームの弁護士は、賄賂と評価されうるきわめて不適切な行為と述べ、夏野氏は、今後も角川容疑者が取締役として経営に関与すること及びガバナンス検証委員会を設置し、再発防止に努めることを説明しました。
事案の概要
外部調査チームは、約17万件のメールやファイルの精査、角川被告を含む約20人へのヒアリングなどの方法により調査を行っていますが、今回発表した中間報告によりますと、KADOKAWAは、大会組織委員会元理事の高橋治之容疑者(受託収賄容疑で再逮捕)に東京五輪・パラリンピックのスポンサーへの選定などを依頼し、スポンサーに就任していました。その後、高橋容疑者からの要請に基づき、同容疑者の後輩が代表を務めるコンサルティング会社、株式会社コモンズ2との間で2019年6月にコンサルタント契約を締結、同契約に基づき、コンサル料名目で計7,665万円を分割で支払ったといいます。
しかし、このコンサルタント契約が、必要性・合理性に疑義があるものとして、特捜部はこれをスポンサー就任に関する賄賂と認定。角川容疑者のほか、元専務と元2021年室室長が逮捕・起訴されるに至りました。
コンサルティングの成果物として、一応、スポーツビジネスについての冊子が確認されたそうですが、活用されず倉庫に眠っていたとのことで、外部調査チームの弁護士は「対価に当たるとは考えにくい」としています。
なお、今回問題となっているコンサルティング契約については、社内の法務部門から「贈賄に該当する可能性がある」旨の指摘がされていたそうで、当該指摘を無視して契約は締結・履行された形になります。
贈賄罪について
贈賄罪は、贈賄の相手が公務員であること、公務員への贈賄が職務に関していること、行為として「供与・申し込み・約束」があることが要件となります。相手方が公務員の場合のみ、贈賄罪が成立します。また、その公務員も『職務に関している』ことが必要なので、利害関係のない公務員に対して金銭などを贈っても賄賂としての性質がなく、贈賄罪は成立しません。さらに、行為として実際に賄賂を贈ることを意味する「供与」や、賄賂を贈るので便宜を図ってほしいと求める「申し込み」、便宜を図ってくれれば賄賂を贈ると密約などを交わす「約束」のいずれかが必要となります。
ちなみに、高橋容疑者が務めた大会組織委員会理事は、大会特別措置法で「みなし公務員」と規定されており、刑法の適用において“公務員”としての扱いを受ける者に該当します。もっとも、贈賄を行った側が、相手方が「みなし公務員」であることの認識を有していなかった場合には、贈賄の故意を欠くとして、贈賄罪は成立しないことになります。
そのため、角川容疑者らが「高橋容疑者がみなし公務員であった旨を知らなかった」という主張を行うことも考えられますが、社内の法務部門から違法性を指摘されていた音声データも特捜部に押さえられているようで、苦しい主張になりそうです。
コメント
報道などによりますと、角川容疑者は、「コンサル料の支払いは認識していたものの支払い先については覚えていない」と説明しているそうで、逮捕・起訴されている元専務や元2021年室室長との共謀を否定しているとのことです。特捜部は、角川容疑者が元専務らからコンサル料の支払いについて報告を受けて了承したという構図を描いていると言われており、「共謀」を立証できるか否かが争点となりそうです。
法務パーソンとしては、自社で同様の問題が起こったときに、法務部門としてどのように対応すればよいのか非常に考えさせられる事件となったのではないでしょうか。助言に耳を貸さず犯罪に手を染めようとしている経営陣を前にしたときに、
・逮捕起訴されたときの、個人・会社が被る損害を、可能な限り高い解像度で具体的に示す
・「このまま契約締結するのであれば、刑事告発する」旨を伝える
・コンサル料支払いを確認後に即座に刑事告発する
といった選択肢が段階に応じて考えられますが、法務パーソンとしてどこまで踏み込むべきかは、「法務機能」の定義とも相まって、非常にデリケートな問題となりそうです。この機会に、「自社で同様の問題が生じたときにどのような対応を行うか」、社内規程等に照らし合わせながら、シミュレーションしてみてもよいかもしれません。
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