公取委が「1円スマホ」を緊急調査、不当廉売について
2022/08/10 コンプライアンス, 独占禁止法

はじめに
公正取引委員会は9日、携帯電話端末の極端な安値販売について緊急実態調査を開始したと発表しました。いわゆる1円スマホの取引構造などを調査するとのことです。今回は独禁法が禁止する不当廉売について見直していきます。
事案の概要
2019年施行の改正電気通信事業法では、通信契約セットで販売する携帯端末の値引き幅の上限を2万円としており、また端末だけの販売を拒否することも禁止されております。公取委は昨年6月に携帯電話市場の実態調査結果を発表し、携帯大手各社に自主的な点検と改善を要請していたところ、各社から改善結果について報告があったとされます。しかしその後、総務省の有識者会議の報告書などで、いわゆる「1円販売」などの極端な廉価販売事例が報告され、法令上問題となりうる事態が見られたとのことです。公取委は携帯大手4社や販売代理店、中古端末業者等を対象に書面や聞き取りで調査を行い、独禁法に違反する場合には行政指導等を検討するとしております。
不当廉売とは
不当廉売とは、いわゆるダンピングとも呼ばれ、著しく低廉な価格で販売することによって競争者の事業を困難にし、市場から排除する行為を言います。独禁法2条9項3号によりますと、「正当な理由がないのに、商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給するうことであって、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの」とされます(法定不当廉売)。また一般指定6項によりますと、「法第2条第9項第3号に該当する行為のほか、不当に商品又は役務を低い対価で供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある」場合も不当廉売として規制されております。不当廉売に当たる場合は排除措置命令の対象となり(20条)、また法定不当廉売に違反する場合は課徴金納付命令の対象ともなっております(20条の4)。
不当廉売の要件
公取委のガイドラインによりますと、2条9項3号に言うところの「供給に要する費用」とは総販売原価を言うとされます。そしてその総販売原価とは、廉売対象商品の供給に要するすべての費用を合計したものであり、製造業では製造原価に販売費および一般管理費を加えたもの、販売業では仕入原価に販売費および一般管理費を加えたものとされております。そして「著しく下回る」かどうかは可変的性質を持つ費用を下回るかどうかで判断されるとされております。可変的性質を持つ費用とは対象商品を供給しなければ発生しない費用、つまり原材料費などのように供給すればするだけ増加する費用を言います。これに対して固定費とは設備費用や会社の維持費など何もしなくても発生する費用を言います。つまり原材料費や仕入費用すら下回る価格である場合は「著しく下回る」と判断される可能性が高いということです。またこれらの低廉な価格で「継続して」販売される必要があります。
正当な理由
上記要件に該当する低廉な価格で販売する場合であっても、正当な理由がある場合には例外的に適法となります。例えば対象商品の市場環境の変化により、仕入値を下回ってでも在庫処分をしなければ更に大きな損失を被る可能性があると言った場合や、生鮮食料品などのように品質が急速に低下するおそれがあるもの、季節商品のようにその最盛期を過ぎた場合は価値が著しく低下するものを見切り商品として販売する場合などです。他にもキズ物や半端物などを訳あり商品として低価格で販売する場合も該当すると言えます。これらの場合は正当な理由があるとして、低価格販売を行っても違法な不当廉売に当たることにはならないということです。
コメント
従来から日本の携帯電話市場はNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクといった大手3社による寡占市場とされ、携帯料金の高止まり、契約と端末のセット販売、契約の自動更新による2年縛りなど競争政策上多くの問題が指摘されておりました。近年電気通信事業法改正などを経てセット販売の強制ができなくなり、また端末の値引きも2万円が限度となるなど一定の改善が見られたものの、格安スマホの参入などにより顧客獲得が激化しており今なお「1円スマホ」といった極端な価格での販売が見られております。公取委は違法な不当廉売に当たらないかについて調査に乗り出しております。以上のように独禁法では著しく低廉な価格、特に原材料費や仕入費を下回る価格での販売は原則違法としております。健全な企業努力によるコストダウンによって実現した場合は問題ありませんが、そうでない場合は問題となります。自社製品の市場でこのような行為が発生していないかを上記要件から見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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