文化庁が「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けたガイドライン」検討結果を公表
2022/07/28 契約法務
はじめに
文化庁は2022年7月27日、文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けた検討会議における議論の結果を踏まえて、「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けたガイドライン(検討のまとめ)」を公表しました。そこで今回は、文化庁が本ガイドラインにおいてどのような契約関係を構築するべきとしているのか、内容を見ていきましょう。
ガイドライン作成の背景
日本の文化芸術は、世界に誇る資産となっている一方で、それを支える芸術家等には様々な困難な状況が生じていると言われています。具体的には、
(1)契約内容があいまいなまま発注が行われ、発注者に対する立場の弱さも相まって、不利な条件で業務に従事せざるを得ない
(2)コロナ禍で、国の芸術家等に対する支援事業等に申請する際に、契約内容が書面化されていないため、コロナ禍以前の報酬額からの減少を客観的に証明できず、支援を受けられない
といった事例が見聞きされています。そこで、文化庁では、文化芸術の担い手である芸術家等が安心して業務に専念することができるよう、外部有識者による「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けた検討会議」を開催し、契約の書面化の推進や適正な契約関係の構築等について議論してきました。
改善の方向性や契約書のひな型及び解説、実効性確保のための方策等を示すことによって、これまで不明瞭だった文化芸術分野における契約関係の適正化を実現し、ひいては、プロフェッショナルの確立、安心・安全な環境での持続可能な文化芸術活動の実現を図ることが目的とされています。
なお、本ガイドラインでは、文化芸術基本法第16条に規定する“芸術家等”のうち、「個人で活動する芸術家等が一方当事者となり、事業者や文化芸術団体等から依頼を受けて行う文化芸術に関する業務の契約関係」が対象とされています。
文化芸術基本法第16条(芸術家等の養成及び確保)
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文化芸術分野における契約上の具体的な課題とは
ガイドラインによると、文化芸術分野においては、両社間が関係者間の信頼関係や従来の慣習等により、口頭による契約を行うことが多いとしています。また、分野、職種、案件により、業務内容や契約期間が異なるなど契約が多様であり、契約書作成に係る事務負担が大きいこと、 業務内容が創作過程で変わることもあるため、契約時に業務内容や業務量を正確に見積もることが困難であること、契約書があっても一方的な内容であれば、芸術家等が不利益を被ったり、トラブルに発展することも大きな課題となっています。このように、文化芸術分野における契約関係の構築は一般的な産業分野よりも困難を伴うケースが多いようです。
課題を踏まえた改善の方向性について
以上の課題を踏まえ、ガイドラインでは以下の方向性を示しています。
1.契約内容明確化のための契約の書面化
契約の書面化の推進のため、各分野や業界等の実情に応じた推進方法が求められること、書面の形は契約書以外にも様々であるが、メール等を含め記録に残すことが重要であることが指摘されています。
2.取引の適正化の促進
芸術家等と発注者間の契約においても、契約自由の原則が適用(原則、当事者の自由意思が尊重)される一方、芸術家等と発注者間には力関係や交渉力に格差があることが多く、発注者側に一方的に優位な契約内容となることが少なくないと言われています。そのため、報酬や取引条件について、芸術家等が協議・交渉しやすい環境を整備していくことが必要であり、かつ、専門性や提供する役務に見合った報酬とするなど、取引の適正化を促進していくことも同時に行う必要があります。
今回のガイドラインでは、「取引の適正化の促進等の観点から契約において明確にすべき事項等」として、以下が挙げられています。
(1)具体的な業務や期間等を可能な限り明確にし、できない場合は理由や予定期日を記載すること
(2)報酬面では業務内容や専門性等に応じた適正な金額となるよう双方で十分に協議、諸経費も明確にすること
(3)契約段階において十分に協議、事後的に協議する場合は業務の履行割合等を勘案し決定すること
(4)安全・衛生面では、発注者は受注者の安全に配慮、事故・ハラスメント防止のため責任体制を確立すること
(5)権利面では許諾の場合の利用範囲や譲渡の範囲など取扱いを明確に、対価の決定時に十分考慮すること
(6)契約変更の際は変更内容も書面により明確に、変更による負担の増減等を勘案して報酬等に反映すること
コメント
文化庁は今後、ひな型などを検討し、今後正式なガイドラインが作成される見通しです。芸術文化分野の不明瞭な契約関係を見直すことで、トラブルが減ることが期待されます。
「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けたガイドライン(検討のまとめ)」本文
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