東電旧経営陣に13兆円超の賠償命令、役員の賠償責任について
2022/07/20 会社法

はじめに
福島第一原発の事故を巡って、東京電力の株主らが旧経営陣に損害賠償を求めていた訴訟で13日、東京地裁は約13兆円の支払いを命じました。民事訴訟の賠償額としては過去最高額とのことです。今回は会社役員の賠償責任について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、2011年3月11日に発生した東日本大震災による福島第一原発の事故で、東京電力の旧経営陣が安全対策を怠っていたとして、同社の株主約50人が翌年2012年3月に株主代表訴訟を東京地裁に起こしていたとされます。この訴訟での争点は、大きな津波が発生し原発を襲うことを旧経営陣が予測できていたか、そして何らかの対策を講じていれば損害の発生を防ぐことができていたかという2点であったとのことです。原告側は旧経営陣5人に対し、約22兆円に上る損害賠償を会社に支払うよう求めておりました。
会社役員の対会社責任
取締役や執行役などの会社役員と会社との関係は委任関係に立ち(会社法330条)、会社に対しては善管注意義務や忠実義務を負っているとされます(355条、民法644条)。これらに違反して任務を怠り、会社に損害を発生させた場合には、会社役員は会社に対してその損害の賠償をする責任を負います(423条1項)。しかし会社の経営判断にはリスクがついて回り、結果的に役員の判断が功を奏さずに損失を出すことも有りえます。そのたびに会社に対して賠償責任が発生していては思い切った決断ができず、経営が萎縮してしまうとも言えます。そこで役員が経営判断を下すまでに十分な情報収集と分析を行っていたこと、そしてそれに基づく判断に不合理な点がなかったことを要件として役員等は責任を免れると言われております(最判平成22年7月15日、経営判断原則)。
株主代表訴訟と請求額
役員等が任務を怠ったことにより会社に損害が発生した場合、上記の責任追求は本来会社自身が行うべきものです。しかし役員同士の仲間意識や自分が追求される立場になった時のことを意識するなどして十分に責任追及がなされないことも多いと言われます。そこで一定の要件の下に株主が会社に代わって責任追及を行うことが可能とされております。それがこれまでも取り上げてきた株主代表訴訟です(847条1項)。原告となることができるのは公開会社では6ヶ月前から引き続き株式を保有する株主です。会社に対し提訴請求をした日から60日以内に会社が提訴しない場合に代わって提訴が可能となります(同3項)。通常民事訴訟では訴額に応じて手数料(印紙代)が必要となります。民事訴訟費用等に関する法律3条等によりますと、訴額が100万円までの場合10万円ごとに1000円となります。訴額が1000万円を超え10億円までの場合は100万円ごとに3000円となります。訴額が50億円となった場合は印紙代だけで1000万円を超えることとなります。しかし株主代表訴訟の場合、訴額にかかわらず一律13000円となっており、提起しやすくなっております。
役員責任の一部免除
上記の役員に関する賠償責任は定款で規定することにより、取締役会決議によって一部を免除することができます(426条1項)。この規定を置くためには監査役、監査等委員会、監査委員会のいずれかが置かれている必要があります。一部免除は当該役員に重過失が無いことが要件となっており、総株主の議決権の3%以上を有する株主が異議を述べた場合は免除できません(同5項)。また定款に定めることにより、業務執行取締役等でない役員に関しては責任を一部に限定する旨の契約を締結することができます(427条)。この場合でもやはり当該役員に重過失が無いことが免除の要件となっております。
コメント
本件で東京地裁は、政府機関がまとめていた津波試算を相応の科学的信頼性を有する知見として、必要な津波対策を怠り、安全意識や責任感が根本から欠如していたとして旧経営陣の責任を認め、13兆3210億円の賠償を命じました。民事賠償額としては過去最高額とされます。東電の定款によりますと、取締役会決議による一部免除の規定が置かれておりますが、上記のように重過失が無いことが要件となっており、また株主の異議がある場合には免除できないことから、これによる減額は困難と考えられます。そのためこの判決が確定した場合は役員個人資産をできる範囲で差し押さえた後は破産となる可能性が高いと言えます。以上のように会社役員は会社に対して忠実に業務を執行する義務を負い、事業の種類によっては極めて重い責任を負います。役員の責任やその範囲について今一度確認しなおしておくことが重要と言えるでしょう。
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