ネット誹謗中傷厳罰化へ、刑法改正について
2022/06/14   刑事法, プロバイダ責任制限法

はじめに
インターネット上の誹謗中傷対策強化を目的として、侮辱罪の法定刑を引き上げる改正刑法案が13日、参院本会議で賛成多数で可決・成立していたことがわかりました。夏にも施行される見通しとのことです。今回は侮辱罪の概要とネット中傷対策について見直していきます。
法改正の経緯
2020年5月に女子プロレスラーの木村花さん(当時22)がSNSで誹謗中傷を受け自殺した問題で、男2人が略式起訴されたものの科料9000円にとどまり、厳罰化を求める声が高まっていたとされます。また近年この事例にとどまらずインターネットやSNSの普及に伴い、匿名での誹謗中傷や風評被害を受ける例が後を絶たないの現状です。対策としてプロバイダ責任制限法による発信者情報開示制度などが創設されましたが、そもそもの誹謗中傷の抑止効果が必要であるとして侮辱罪の法定刑の強化にいたったとされます。しかし侮辱罪の厳罰化については、かねてより「表現の自由」への影響を懸念する声も上げられており、言論弾圧につながる可能性も否定できないとされてきました。そこで今回の法改正では施行から3年後を目処に表現の自由に対する制約となっていないかを有識者を交えて検証するとされております。
侮辱罪と要件
刑法230条1項によりますと、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」とされております。これが名誉毀損罪です。そして刑法231条では、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する」とされれおります。こちらが侮辱罪となっております。このように名誉毀損と侮辱罪は関連性が強く、「事実の摘示」有無が両者の違いと言えます。「公然と事実を摘示」するとは、不特定多数の者が認識できる状態で、「○○は詐欺で逮捕されたことがある」「○○は○○と不倫をしている」「○○は反社と関わりがある」といった事実を示すことを言います。「人の名誉を毀損」するとは、人の社会的評価を低下させることとされます。ここに言う「人」とは自然人だけでなく会社などの法人も含まれるとされ、侮辱罪も同様です。そして「侮辱」とは、事実を摘示せず、単に「馬鹿野郎」「クズ」「デブ」「ブラック企業」といった誹謗中傷行為を言うとされます。つまりネット上の誹謗中傷はまさにこの侮辱罪に該当することとなります。
法改正の概要
現行刑法231条の侮辱罪の法定刑は上述のように「拘留又は科料」となっております。拘留とは、1日以上30日未満の刑事施設への拘置とされており(16条)、科料とは1000円以上1万円未満とされております(17条)。3年以下の懲役・禁錮、または50万円以下の罰金とされる名誉毀損罪とくらべても相当に軽い法定刑と言えます。今回の法改正で侮辱罪は、「1年以下の懲役もしくは禁錮、30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料」となります。下限は現行法と同様ですが、上限が1年以下の懲役と大幅に強化されております。また今回の法改正で侮辱罪とは別ですが「懲役」と「禁錮」が廃止され「拘禁刑」に一本化され、公布から3年後に施行される予定とのことです。
ネット上の誹謗中傷対策
近年社会問題化しているネット上の誹謗中傷対策として総務省では「インターネット上の誹謗中傷への対応に関する政策パッケージ」を取りまとめ、公表しております。それによりますと、ユーザーに対する情報モラルやICTリテラシー向上のための啓発活動、プラットフォーム事業者の自主的取組の支援と透明性・アカウンタビリティの向上、発信者情報開示に関する取組、相談対応の充実に向けた連携と体制整備が盛り込まれております。特に発信者情報開示では、電話番号を開示対象に追加する省令改正や弁護士会照会に応じて電話番号に紐付く氏名・住所を回答可能とするガイドラインの明確化、通信ログの早期保全についての法改正、ログイン時情報を明確化する法改正、民間相談機関の設置やガイドラインの充実などが盛り込まれ、いずれも既に施行済みとなっております。
コメント
近年のインターネットやSNS等の急速な普及にともなって匿名の誹謗中傷や名誉毀損、風評被害が深刻な状況となっております。木村花さんの自殺といった個人の人格的被害だけにとどまらず会社などの法人に関しても甚大な損害に発展する例が多発しております。今回の刑法改正による侮辱罪の厳罰化によって、ネット上の誹謗中傷も犯罪に該当し、懲役刑を受ける可能性があることを示すこととなり、一定の抑止効果が期待されております。また実際に名誉毀損や誹謗中傷を受けた場合の民事訴訟への可能性を拡充するため発信者情報開示の対象の拡大や要件の明確化などの動きも活発化しております。自社がこれらの被害を受けた場合にどのような対応ができるのかを今一度確認し、準備しておくことが重要と言えるでしょう。
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