【特集】第3回目 社員・役員を告訴する手続まとめ 
2017/10/16   コンプライアンス, 刑事法

第1 はじめに

 こんにちは。企業法務ナビの企画編集部です。「社員が犯罪を行った場合の企業の対応」というテーマで特集記事をお送りしてきましたが、第3回目の今回が最終回となります。今回は、犯罪を犯した社員・役員を会社が刑事責任を追及する手続、いわゆる告訴の手続についてみていきたいと思います。

第2 刑事告訴・刑事告発

1 刑事告訴・刑事告発とは

 告訴とは、被害者等が、捜査機関に対し、犯罪事実を申告して、犯人の処罰を求める意思表示をいいます。
 告発とは、告訴権者以外の第三者が、捜査機関に対し、犯罪事実を申告して犯人の処罰を求める意思表示をいいます。
 告訴状が受理されたら、刑事手続が進んでいきます。不起訴処分になる場合もありますが、刑事裁判になった場合には、関係者が証人尋問を受けることもありえます。その場合には、証言の方針決定に関わることもあると考えます。

刑事事件弁護士ナビ(刑事告訴とは|刑事告訴された後の流れと状況ごとの対処法)

2 具体的な事例

 日本経済新聞によると、東武鉄道の元経理部長は、1993年から20年以上にわたり、架空の立替払いによって現金を着服していたほか、担当していた別のグループ会社の口座から自身の口座に不正に資金を移していました。総額で、計1億2630万円を着服しています。被害弁償もされていないことから、東武鉄道は刑事告訴を検討しています。このように、会社が横領や背任などの被害にあった場合、社員・役員に刑事責任を追及することもありえます。

元経理部長1.2億円着服 東武子会社、刑事告訴を検討(日本経済新聞)

第3 告訴による影響

 告訴・告発により、捜査機関が捜査を開始することになります。社内外の関係者に捜査機関が事情聴取をすることにより、事情が社内外に知れ渡る可能性があります。それだけでなく、従業員の事情聴取により通常業務に滞りが出る可能性があります。また、社会的影響の大きい事件などには、捜査機関が報道機関に対して捜査状況を公表する可能性があります。
 したがって、被害額が大きく被害弁償もされておらず、会社や顧客に対する影響も大きく、社内の懲戒処分や民事責任の追及では足りない場合には、告訴を検討することになります。はじめに記載した東武鉄道の着服では、1億円以上という被害額の大きさと、被害弁償未了により、刑事告訴を検討しているようです。

小池啓介「相談室Q&A 社員を刑事告訴する場合、どのような対応をすべきか」労政時報3871号(株式会社労務行政、2014年)138頁(PDFリンク)

第4 告訴の方法

1 警察か検察か

 法律の定めは特にありません。原則として警察ですが、贈収賄や金商法等の事件は経験が多い検察に告訴することが多いようです。

告訴の方法について(弁護士ドットコム)

2 受理される可能性

 刑事告訴するとしても、捜査機関に告訴を受理してもらうことは簡単なことではありません。警察や検察は、日々大量の事件処理に追われていて、刑事告訴を全て受理してしまうと、事件捜査が滞ってしまいます。そうすると、十分に有罪の見込みがある証拠がそろっている場合や、社会的に意義がある場合でなければ、刑事告訴を簡単には受理しない傾向にあります。
 したがって、関係者へのヒアリングや社用パソコンの調査、社内の関係文書の収集により、着服の証拠を十分に収集していく必要があります。
 書面で作成した告訴状には、告訴する人物も事件の概要と上記の収集証拠をきちんと示した資料を提出する必要があります。

被害届や刑事告訴とは何か?被害届の出し方や告訴を受理してもらうには(弁護士ドットコム)

第5 民事裁判

1 民事上の争いについての刑事訴訟手続における和解

 民事で示談が成立した場合には、刑事裁判でその示談の合意を公判調書に記載するよう請求することができます。その記載が民事裁判の判決と同様の効力を持ち、強制執行を行うことができます(犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律第13条等)。
 この制度を活用すれば、刑事裁判の中で、一括して民事の損害賠償請求ができることを公的に確定させることができます。

裁判手続 刑事事件Q&A(裁判所)

2 捜査記録の開示

 不起訴処分の記録は、原則非公開ですが、損害賠償請求を行う際に必要であるなどの場合、不起訴記録の開示申請をしたうえで、許可が出れば、閲覧・謄写可となります。
 また、民事裁判において、文書送付嘱託を行うことで、刑事裁判の供述調書を民事裁判の証拠として活用することが考えられます。

不起訴事件記録の開示について(法務省)

知らないと困る,刑事記録の入手方法(Lawyer's Helper)

第6 おわりに

 全3回にわたり、「社員が犯罪を行った場合の企業の対応」というテーマで特集記事をお送りしてきましたが、いかがだったでしょうか。次回の特集記事企画は、「株主総会における企業の対応」をテーマにお送りしていきたいと思います。最後まで、お付き合い下さり有難うございました。
(文責:mir21)

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