岡島百貨店の株主総会で説明不足の声、取締役の説明義務について
2022/05/27 労務法務, 総会対応, 会社法

はじめに
現在再開発計画が浮上している岡島百貨店の株主総会が26日開催されました。出席した株主からは説明不足を指摘する声が聞かれているとのことです。今回は株主総会での役員の説明義務について見直していきます。
事案の概要
山梨放送の報道などによりますと、山梨県甲府市の岡島百貨店では現在の建物を解体し、都内の不動産開発業者が土地を買い取って、低層階を商業施設、高層階をマンションとする複合ビルを建設する再開発計画が持ち上がっているとされます。26日に開催された株主総会では同社の雨宮潔社長は再開発計画を否定せず、複数ある計画の一つであるとした上で、建物の老朽化もあり維持困難であることから新しい時代への対応を検討しているとのことです。総会に出席した株主からは説明不足などと不満の声が相次いでいたとされております。
取締役等の説明義務とは
会社法314条によりますと、取締役、会計参与、監査役、執行役は株主総会で、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、その事項について必要な説明をしなければならないとされております。参加者から求められ、必要な説明をすることは会議体の一般原則から当然のことと言えますが、形骸化していた株主総会を活性化するために昭和56年の商法改正で盛り込まれた制度とされております。説明義務自体は条文にもあるとおり株主総会で株主から説明を求められて初めて生じるとされており、「株主が会議の目的事項を合理的に判断するのに客観的に必要な範囲の説明」で足りるとされております(東京高裁昭和61年2月19日)。そのため事前に株主から提出された質問状の内容を整理しておいて、当日に一括回答することも許容されるとされております。なお一定の株式保有者でなければ閲覧請求できない会計帳簿については説明の対象に当たらないと言われております。
説明を拒絶できる場合
この取締役等の説明義務には例外があり、一定の場合には説明を拒絶できるものとされております(同条但し書き、施行規則71条)。(1)説明を求められた事項が株主総会の目的である事項に関しないものであるである場合、(2)説明することにより株主の共同の利益を著しく害する場合、(3)説明をするために調査が必要である場合、(4)説明をすることにより会社その他の者の権利を侵害することとなる場合、(5)実質的に同一の事項について繰り返し説明をもとめられた場合、(6)その他正当な理由がある場合となっております。ただし説明をするために調査が必要な場合については、その調査が著しく容易である場合、または相当期間前に事前に質問がなされていた場合は拒絶することはできないとされております。
説明義務に違反した場合
取締役等が説明義務を果たさなかった場合は株主総会決議取消訴訟が提起される場合もあります。株主総会決議取消訴訟は、(1)株主総会の招集手続または決議の方法に法令・定款違反があった場合、または著しく不公正であった場合、(2)決議内容が定款に違反する場合、(3)決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことにより著しく不当な決議がなされた場合に提起できます(831条1項)。出訴期間は株主総会決議の日から3ヶ月以内となっております。株主総会での説明義務違反は手続きの法令違反ということとなり取消事由に該当するということです(取消された例、東京地裁昭和63年1月28日等)。また説明義務違反には罰則として100万円以下の過料が規定されております(976条9号)。
コメント
本件で、建物の老朽化などから大規模な再開発計画が浮上している岡島百貨店の株主総会で雨宮社長は複数ある計画の一つとして計画の存在を否定しなかったとされます。しかし出席株主からは説明不足の声も上がっているとされております。株主総会で具体的に株主から質問がなされたか等について詳細は不明ですが、株主等の関心が寄せられる事項について十分な説明がなされなかった場合は株主に不満が残る可能性があると言えます。以上のように取締役等の役員は株主総会で説明が求められることがあり、具体的に求められた場合は法的な義務となります。これに反した場合は事後、取消訴訟に発展することもあります。今年も定時株主総会の時期に突入しております。招集手続きだけではなく、総会の運営などについても必要な手続き等を今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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