性同一性障害アウティング訴訟で和解、SOGIハラについて
2022/05/25 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般

はじめに
性同一性障害で性別を変えていたことを職場で同意なく明かされたとして、看護助手の女性が勤務先の病院を訴えていた訴訟で和解が成立していたことがわかりました。病院側が解決金を支払うとのことです。今回はSOGIハラについて見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、原告側の看護助手の女性(51)はもともと男性として生まれたものの、幼少期より自身の性自認は女性であったことから、性同一性障害特例法に基づき2004年に性別を女性に変更し、2013年から大阪府内の病院で働き始めたとされます。しかし働き始める際に上司から同僚の前で同意なく男性であったことを明かされたり、同僚から「気持ち悪い」などと言われたとのことです。女性は差別的なハラスメントにより尊厳を傷つけられたなどとして病院を運営する医療法人に慰謝料などを求めて2019年に大阪地裁に提訴しました。なお同年2月に茨木労働基準監督署からSOGIハラによる精神障害を発症したとして労災認定を受けております。
SOGIハラとは
SOGIとは、「Sexual Orientation and Gender
Identity」の略で性的指向と性自認を意味するとされます。レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーを意味するLGBTとは似て非なる概念と言えます。SOGIは好きになる人の性別を示す性的指向と自身が認識する性別を示す性自認のことであり、自身の肉体的な性別と性自認に不一致がある場合が性同一性障害ということとなります。そしてこのようなSOGIに関連して差別的な言動や嘲笑、いじめや暴力などの精神的・肉体的な嫌がらせをSOGIハラと言うとされております。SOGIを理由とする不当な異動や解雇、本人の同意無く公表する、いわゆるアウティングもSOGIハラに該当すると言われております。このように近年SOGIは国連を中心に世界的に広まりつつある概念で、日本でも関心が高まりつつあります。
SOGIハラの法的問題
厚生労働省のパワハラ防止指針(令和2年厚生労働省告示第5号)によりますと、パワハラとは、(1)職場における優越的な関係を背景とした言動であって、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、(3)労働者の就業環境が害されることとされます。そしてその具体例である精神的な攻撃の一つとして、「相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うこと」が挙げられており、また個の侵害の一つとして、「労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること」も挙げられております。つまりSOGIハラもパワハラの1類型に該当するということです。そして本事例でも上記のようにSOGIハラによる精神障害の発症について労災認定がなされております。
アウティングの法的問題
上記のようにSOGIハラの一種に該当するとされるアウティングについても、近年これに関連した問題が増加しております。2015年に一橋大法科大学院の男子学生が同級生に同性愛者であると暴露され、大学の校舎から飛び降り自殺し、遺族が学校と同級生を相手取り計約8600万円の損害賠償を求めていた訴訟で東京高裁はアウティングについて、「人格権かプライバシー権を著しく侵害する許されない行為」として不法行為に当たると認定しました(東京高裁令和2年11月25日)。このようにアウティングはSOGIハラやパラハラとなるだけでなく、本人の同意無く本人の秘密の暴露は違法であり、不法行為や慰謝料の対象となる可能性が高い行為と言えます。なお一橋大学の事例では学校側の責任は否定されております。
コメント
本件で原告側の女性は性同一性障害により性別適合手術を受けて戸籍の氏名を女性に変更した事実を本人の同意無く同僚に暴露され、同僚からもそれについての嫌がらせなどを受けていたとされます。病院側は上司らの発言を謝罪し解決金を支払うとして和解が成立しております。以上のように性同一性障害であることや、それによって性別適合措置を受けたという事実についての暴露はアウティングに該当し、またその事実に関連した侮辱的な言動もSOGIハラに該当します。近年これらの問題に関する関心も高まっており、厚労省が公開しているモデル就業規則でもSOGIハラを禁止する文言が盛り込まれております。一方で性同一性障害に対する理解はまだまだ深まっているとは言い難い状況で、職場や学校などで適切な対応がされずに訴訟に発展するケースも増えていると言えます。今一度社内での認識や対応に問題がないか見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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