公取委が一蘭カップ麺を調査、再販売価格の拘束とは
2022/03/29   コンプライアンス, 独占禁止法

はじめに


 人気ラーメンチェーンの「一蘭」(福岡市)が商品化したカップ麺の小売店での販売価格を不当に拘束した疑いがあるとして公正取引委員会が同社を調査していることがわかりました。1個税込み490円とのことです。今回は独禁法が規制する再販売価格の拘束について見ていきます。

 

事案の概要

 読売新聞の報道によりますと、1960年に福岡県内で豚骨ラーメン店として創業した一蘭は現在国内外に87店舗を展開しており、家庭用ラーメンなどの製品も開発しているとされます。昨年2月から販売を開始したカップ麺「一蘭 とんこつ」は具材がないにもかかわらず税込み490円という強気の価格設定が話題を呼び、これまでに600万食売り上げているとのことです。同社はこれら自社製品を小売店に販売する際に、ブランドイメージを維持するため、値下げをしないよう圧力をかけた疑いがもたれております。公取委は今後、小売店との具体的なやり取りなどについて調査を進めていくものと見られております。

 

再販売価格の拘束とは

 独禁法2条9項4号イによりますと、自己の供給する商品を購入する相手方に、正当な理由がないのに当該商品の販売価格を定めてこれを維持させること、その他販売価格の自由な決定を拘束することは再販売価格の拘束として禁止されております。小売業者間の価格競争により自社製品の価格が崩れ、ブランドイメージが低下することを恐れたメーカーが小売業者に一定の価格以下で販売しないよう圧力をかけるといった行為が典型例と言えます。このような行為により小売市場での公正な価格競争が阻害され、一般消費者に被害が出ることを防止する趣旨とされます。最販売価格の拘束に対しては排除措置命令(20条)、課徴金納付命令の対象となっており(20条の5)、違反行為期間における事業者の供給した製品の売上額に3%を乗じた額が徴収されることとなります。

 

再販売価格の拘束の要件

 再販売価格の拘束は「正当な理由」がないのに行われた場合に違法となります。つまり正当な理由がある場合は適法となるということです。公取委のガイドラインによりますと、再販売価格の拘束によりブランド間競争が促進され、需要が増大し、それにより消費者の利益が増進するといった場合には、必要な範囲、必要な期間の範囲で認められるとされます。そして再販売価格の拘束は、事業者の何らかの人為的手段によって価格拘束の実効性が確保されている必要があるとされます。ガイドラインでは、事業者が提示した価格で販売することが、文書または口頭による契約で定められている場合、流通業者に同意書を提出させた場合、取引の条件として提示し、条件を受諾した業者とのみ取引をする場合、売れ残った商品は値引き販売させずに買い戻すことを条件とした場合などが挙げられております。なお再販売価格の拘束の対象となるのは自社の製品であって、役務・サービスの場合は拘束条件付取引の対象となります。また書籍、雑誌、新聞、音楽CDなどの著作物については例外的に再販売価格の拘束が許容されております。

 

再販売価格の拘束の具体例

 実際に問題となった例としては、自社のキャンプ用品を小売業者に販売するにあたり、自社の定める下限以上の価格で販売すること、割引販売は他社の製品も含めた全商品を対象とする在庫処分であり自社が指定する日以降にチラシ広告を使用せず行うことなどを要請し、同意を得ていたものが挙げられます(平成28年6月15日排除措置命令)。また価格拘束の実効性確保の手段として、自社が提示した価格以上で販売しない場合は出荷停止とする例や、価格を守る場合はリベートを供与したり、提示した価格を守っているかどうかについて報告を徴収し、転倒パトロールを実施するといったものや、自社製品に秘密番号を付し、安売りを行っている流通業者を特定して圧力をかけるといった例が挙げられております。

 

コメント

 本件で一蘭は自社が販売するカップ麺について、設定した小売価格を維持するよう小売店に指示し、圧力をかけていた疑いがもたれております。問題となった製品は具材無しで490円と高めな価格設定が話題を呼び、600万食の売上を出しているとされます。このような商品の場合は値段の高さが話題性とブランドイメージを保持する重要な要素となっており、メーカーとしては価格維持を要請するメリットは大きいと言えます。しかし上記のように独禁法では原則として小売業者への価格維持の要請は禁止されており、例外として適法となる「正当な理由」についても非常に要件が厳しくなっております。本件では今後、同社が小売業者とどのようなやり取りを行っていたのかを詰めていくものとされます。自社製品を流通業者に販売している場合には、価格維持を要請していないか、価格維持のためにリベートなどを渡していないかを今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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