金融庁、相場操縦事件でSMBC日興証券への行政処分を検討
2022/04/01   コンプライアンス, 金融商品取引法

はじめに


鈴木俊一財務相兼金融担当相は、2022年3月25日の閣議後記者会見にて、SMBC日興証券と幹部7名らによる相場操縦事件に関し、「市場の公正な取引確保のために尽力すべき立場にありながら、自ら組織的に不公正な取引を行ったとしたら、市場の信頼を揺るがしかねない事態である。金融庁として、必要に応じて厳正に対処してまいりたい」と述べ、行政処分も視野に検討する考えを示しました。連日報道されているように、本件で、東京地検特捜部は副社長を含む同社幹部7名を金融商品取引法違反容疑で逮捕し、法人としてのSMBC日興証券と幹部5人を起訴する事態にまで発展しています。今回は、相場操縦に対する行政処分について見ていきます。

 

事件の概要


SMBC日興証券幹部らが、相場操縦により、株価を維持するための不正な買い支えに関与したとして2022年3月24日、東京地検特捜部はSMBC日興証券幹部ら7名を金融商品取引法違反容疑で逮捕しました。東京地検特捜部は上層部の不正関与について全容解明を進める見通しです。大手証券会社が金融商品取引法違反の容疑で刑事告発されることはきわめて異例です。
 

今回の事件のポイント


今回の事件では、市場の終了直前に大量の買い注文を入れるなどして不正な株取引をしたことが相場操縦取引にあたるとされています。これらの取引はブロックオファーと呼ばれ、最近では問題視されています。結果としてSMBC日興証券はこのブロックオファーを用いて、年間に数十件の取引をおこない、数十億円の収益を上げていたとされています。SMBC日興証券の社内システムでは、こうした不審な取引を感知した際に止める判断基準が明確でなく、リスク管理体制が甘かったこともこうした事件を未然に防ぐことができなかった理由の1つであるとされています。

 

相場操縦に対する行政処分


行政処分の基準


(1)当該行為の重大性・悪質性、(2)当該行為の背景となった経営管理態勢及び業務運営態勢の適切性(代表取締役や取締役会のコンプライアンス意識、内部監査体制の機能度合い、機能度合い、コンプライアンス部門・リスク管理部門の体制構築度合いや機能度合い、業務担当者のコンプライアンス意識、業務担当者への社内教育度合いetc.)、(3)軽減事由(行政による対応に先行して、自主的に利用者保護のために所要の対応に取り組んでいる、といった軽減事由があるか。)の諸要因を勘案しつつ、
 

・改善取組みを金融機関の自主性に委ねることの適否
・業務改善に専念・集中させるべき期間の長さ
・業務を継続させることの適否

等の点について検討を行ったうえで、最終的な行政処分の内容が決定されます。

 

金融庁が金融商品取引業者等に対して行う主な行政処分の種類


主に以下のような行政処分があります。
 

■業務改善命令
法令順守や内部管理体制の不備を指摘し、業務の方法の変更その他業務の運営等に必要な措置をとることを命じるもの。処分を受けた金融機関は改善計画の提出が求められる。改善計画では、ガバナンス・リスク管理・コンプライアンス等について、金融機関が自ら抜本的な態勢の改善に取組むことを示さなければならない。また、改善計画の提出後は、進捗状況を金融庁に定期的に報告することになる。

■業務停止命令
最長で6か月間、業務の全部若しくは一部の停止を命じるもの。

■登録取消し・認可取消し

■役員解任命令

■課徴金納付命令
(1)課徴金納付命令までの手続
証券取引等監視委員会が調査を行い、課徴金の対象となる法令違反行為があると認める場合には、内閣総理大臣及び金融庁長官に対し勧告を行います。これを受け、内閣総理大臣から委任を受けた金融庁長官が審判手続開始決定を行い、審判官が審判手続を経たうえで課徴金納付命令決定案を作成します。金融庁長官は、決定案に基づき、課徴金納付命令の決定を行います。

(2)相場操縦に対する課徴金額
違反行為に係る損益と、違反行為開始時点で自己の計算において生じているポジションについて、違反行為後1月間の平均価格と違反行為期間中の平均価格の差額に当該ポジションの数量を乗じた額との合計額等。
以下のページがわかりやすいと思います。
【外部リンク】JPX日本取引所グループHP

過去の事例に照らすと、数百万円ほどの額となることが多いようです。

 

コメント


今回は相場操縦に対する行政処分について見ていきました。大手証券会社が金融商品取引法違反で逮捕されるのは珍しく、事件の全貌解明が東京地検特捜部によって急がれています。金融商品取引法に基づいて、利用者の保護と健全でクリアな市場を広げていくためにも、今回の事件の全貌解明の結果によっては株式市場が大きく変化することになるかもしれません。鈴木財務兼金融担当大臣もコメントするなど、国民としても看過することの出来ない問題になってきていますので、株式に興味がない方でも今後のSMBC日興証券の対応は注目していきたいポイントです。

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