ネタバレサイトに無断掲載で書類送検、著作物の引用とは
2022/02/04   知財・ライセンス, 著作権法

はじめに

 福岡県警は3日、漫画のせりふなどを文字起こししたものや画像などをネタバレサイトに無断で掲載したとして東京都内のWEBサイト制作会社とその代表者の男(44)を著作権法違反容疑で書類送検していたことがわかりました。引用の範囲内だと思っていたとのことです。今回は著作物の引用について見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、書類送検された会社代表者の男は2020年5月、漫画「ケンガンオメガ」のセリフを文字起こししたものや画像などを自身が運営するネタバレサイト「漫画ル」に無断で掲載していたとされます。同サイトでは感想や考察などの名目で多数の漫画作品が文字起こしされて抜き出されており、広告で収入を得ていたとのことです。男は容疑を認めた上で、漫画好きの人たちと交流や情報交換をしたかったなどとし、引用の範囲内だと思っていたと供述しているとされます。同サイトは現在閉鎖されております。

 

著作権とその例外

 著作権が認められる著作物を著作権者の許諾を得ないで無断で使用した場合、著作権侵害となり罰則や民事上の責任を負う可能性があります。しかし一定の場合には著作権が制限され、著作物を許諾を得なくても自由に利用することができます(著作権法30条~47条)。具体的には、私的利用のための複製、写り込み等の付随対象著作物の利用、検討過程における利用、情報処理の過程等での利用、図書館等での複製、引用、教科用図書教材への掲載等、学校教育番組の放送等、試験問題としての複製、聴覚障害者等のための複製、営利を目的としない上演等、政治上の演説、時事事件報道のための複製、公開美術の著作物の利用、コンピュータやネットワーク上の情報処理の過程での複製等などが挙げられます。以下引用について見ていきます。

 

引用とは

 著作権法32条によりますと、公表された著作物は引用することができるとし、その引用は公正な慣行に合致するものであり、正当な目的の範囲内で行われなければならないとされております。つまり(1)公表された著作物であること、(2)公正な慣行に合致すること、(3)正当な目的の範囲内であることの3つの要件を満たす必要があります。まず既に刊行されていたりネット上で公衆に開放されているなど公表されたものである必要があります。そして社会通念上、公正な慣行に合致するものであることが求められます。またその引用も報道や批評、研究その他の目的上正当な範囲内でなくてはなりません。さらにどこから引用したのか、出典を明らかにすることや、引用部分を勝手に改変しないことも要件と言われております。

 

引用に関する裁判例

 引用に関する著名な事例として、山岳写真家の写真作品の一部をグラフィックデザイナーが合成写真を作った上で風刺画に利用したというものがあります(パロディー・モンタージュ事件、最判昭和55年3月28日)。この事例で最高裁は引用の正当な目的の範囲に関する要件について、引用して利用する側の著作物と引用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、前者と後者の間に主従の関係が認められなくてはならないとしました。これを一般に「明瞭区別性」と「付従性」の2要件と呼びます。そして藤田嗣治絵画複製事件で東京高裁は「付従性」要件を判断する上でその考慮要素として、引用の目的、両著作物の性質、内容、分量、被引用著作物の採録の方法、態様などを挙げ、想定読者の一般的観念に照らして判断すべきとしております(東京高裁昭和60年10月17日)。

 

コメント

 本件でネタバレサイトの運営者は、漫画「ケンガンオメガ」のセリフをそのまま文字起こしして掲載していたとされ、その他にも多くの漫画が同様の手口で無断掲載されていたとされております。先が気になる読者は購入まで待てずに見てしまう場合が多く、アクセス数に応じて広告収入を得ていたとのことです。これらが事実であれば、公正な慣行に合致したものではなく、また報道や批評といった正当な目的の範囲内とも認められないと考えられ、著作権法が許容する引用に該当しないと言えます。以上のように著作物の引用には著作権法の要件を全て満たす必要があります。漫画や小説、アニメなどをほぼそのまま掲載したりアップロードする行為は基本的に違法と言えます。自社作品の内容が掲載されている場合だけでなく、他人の著作物を自社サイトに掲載するといった場合には、適法な引用となっているかを今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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