運送会社の騒音で259万円の賠償命令、「受忍限度論」について
2022/02/03 コンプライアンス, 環境法務, 環境法

はじめに
隣接する運送会社の騒音が原因で精神的苦痛を受けたとして、岐阜県瑞穂市の住民が会社に損害賠償を求めた訴訟で先月28日、岐阜地裁は259万円の支払いを命じていたことがわかりました。受忍限度を超える騒音とのことです。今回は騒音被害と受忍限度論について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、問題となった運送会社の営業所はトラック28台を配置して24時間体制で稼働し、周辺住民は昼夜エンジン音や荷降ろし、高圧洗浄機による洗車の音などに悩まされたとされます。騒音は騒音規制法の基準値を超えており、会社側も実効性のある対策を取らなかったとして、周辺の4世帯、7人の住民が2020年2月に約2600万円の賠償を求め提訴していたとのことです。また今回の提訴に先立ち2019年11月に騒音差し止めの仮処分を申し立て、岐阜地裁から午後11時~翌朝6時の間は50デシベルを超えてはならないとの仮処分が出されていたとされます。
騒音被害と損害賠償請求
工場や飛行場、高速道路、幼稚園や小学校など騒音が発生し周辺住民とトラブルが発生する場所は現代日本の日常にあふれていると言えます。このような騒音トラブルが生じた場合、住民側はどのように損害賠償請求などを行うのでしょうか。まず考えられるのは不法行為に基づく損害賠償請求です(民法709条)。故意または過失により騒音を発生させたとして治療費や精神的苦痛に対する慰謝料の請求を行います。それ以外にも人格権などに基づく差し止め請求や、場合によっては区分所有法などの個別の法令に基づいて差し止め請求を行うことも考えられます。いずれにしても工場や飛行場などが発生させている騒音が違法なものであることを原則として原告側が証明していくこととなります。
受忍限度論
それではどのような場合に騒音が違法と評価されるのでしょうか。人や企業などが日常生活を営む上で、ある程度の音を発生させることはやむを得ないと言えます。そのため騒音を発生させたら直ちに違法となるわけではありません。そこでどの程度の騒音であれば違法となるかが問題となります。この点については一般的に「受忍限度論」と呼ばれる考え方によって判断されてきております。受忍限度論とは、社会生活を営む上で、一般通常人ならば当然受忍すべき限度を超えた侵害を受けた場合に違法な権利侵害と認めるとの考え方です。その具体的な判断に当たっては、侵害行為の態様・程度、被侵害利益の性質・内容、地域環境、侵害行為の開始とその後の経過および状況、その間に採られた侵害防止に関する措置の有無やその内容など諸般の事情を総合的に考慮して判断すると言われております。
受忍限度論に関する裁判例
建物解体工事の騒音被害で周辺住民が損害賠償請求した事例で、騒音に関する受忍限度について、ある程度継続的に85デシベルを超える騒音や一定ではなくとも一時的に94デシベルを超える騒音は特段の事情が無い限り受忍限度を超える違法なものとし、その上で距離低減を考慮して音源から85メートルの範囲内の住人のみ賠償を認めた例があります(さいたま地裁平成21年3月13日)。マンションの住民が真上の階の子供の飛び跳ねる騒音被害で賠償を求めた事例では、受忍限度を53デシベルを超える騒音として賠償と差し止めを認めた例があります(東京地裁平成24年3月15日)。また東海道新幹線の騒音被害の事例では、受忍限度について、騒音につき73ホン、振動につき64デシベルとし、1月あたり騒音93ホン以上で1万2000円の慰謝料を相当としております(名古屋高裁昭和60年4月12日)。
コメント
本件では24時間体制で稼働する運送会社の営業所によるエンジン音や荷物の積み下ろし、タイヤが砂利を踏みしめる音、高圧洗浄機による洗浄音が騒音規制法の基準値を超えていたとされます。岐阜地裁は受忍限度を超え、原告の静穏な生活を送る人格的権利を侵害しているとしました。一方で精神疾患や健康被害との因果関係は否定しております。昼夜を問わない基準値を超える騒音が評価されたものと考えられます。以上のように騒音被害による違法性は態様や程度、地域環境や経過、被害の内容など様々な要素を総合的に判断されます。そのため基準値を超えた騒音が発生していたとしても、それだけで一律に違法となるというものではありません。また周囲との距離や、どの程度防音措置を取っているかなども影響が大きいと言えます。自社の営業所や事業場での騒音の程度や周辺への影響などを今一度見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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