淡島ホテル親会社社長を逮捕、詐欺破産罪とは
2021/09/28 事業再生・倒産, 破産法, その他

はじめに
静岡県沼津市の淡島に建つホテルの破産手続きをめぐり、親会社社長が意図的に財産価値を下げていたとして破産法違反の疑いで逮捕されていたことがわかりました。土地と建物の権利者を別々にしていたとのことです。今回は破産法が規定する詐欺破産罪について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、旧「淡島ホテル」の破産手続きをめぐり、同ホテル運営会社の親会社社長(52)ら5人は、2019年10月、ホテルが建っている土地の借地権を時期をさかのぼって同グループ内の別会社に移し、建物と土地の権利者を別々にしていたとされます。これによりホテルの財産価値を下げて債権者の利益を害したとして、破産法違反の疑いで逮捕したとのことです。同社長らは破産手続き前からホテル建物と土地の権利者が異なるように見せかけ、売却しにくくし、ホテル経営を続けようとしていたとされます。
破産法による規制
破産法によりますと、債務者が、破産手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で(1)財産隠匿または破壊、(2)財産の譲渡または債務の負担を仮装、(3)財産の現状を改変して価値を減損、(4)財産を債権者の不利益に処分または債務の負担することが禁止されております。違反した場合には詐欺破産罪として10年以下の懲役、1000万円以下の罰金またはこれらの併科となっております(265条1項)。また債務者に破産手続開始決定がなされたことを知りながら、債権者を害する目的で、破産管財人の承諾その他の正当理由無く債務者の財産を取得した場合も同様です(同2項)。
具体的要件
265条1項によりますと、「破産手続開始の前後を問わず」と規定されております。破産手続開始決定を受けた後だけでなく、その前でも成立することとなります。具体的にどれくらい前までが規制の対象となるかは条文上示されておりませんが、すでに返済が困難な状況となっている場合は該当する可能性が高いと言えます。そして「債権者を害する意図」が必要です。その行為により債権者が不利益を受けることを認識している必要があります。その上で財産の隠匿や破損、第三者に廉価で譲渡したり、不利な条件でさらに債務を増加されたり、債務を新たに負ったように仮装すると詐欺破産罪が成立することとなります。またこれらの行為に加担した第三者も同様に罰せられることとなります。
その他の義務
破産者は上記以外にも、居住制限や説明義務、重要財産開示義務、免責調査協力義務などを負っております。破産者は裁判所の許可を得なければ居住地を離れることはできません(37条)。また破産管財人等から破産理由や財産状況について説明を求められた場合には説明する義務があります(40条1項)。そして破産者は破産手続開始決定後遅滞なく所有財産などを記載した書面を裁判所に提出する必要があります(41条)。これらの義務に違反した場合は免責不許可事由に該当し、免責を受けられなくなります(252条1項各号)。つまり負債の支払を免除してもらえないということです。また財産開示義務に違反した場合には罰則として3年以下の懲役、300万円以下の罰金またはこれらの併科となっております(269条)。
コメント
本件で淡島ホテル運営会社の親会社社長らは破産手続開始決定前から、建物の賃借権を別会社に移転させて建物と土地の利用権の権利者が別々であるように仮装していたとされます。このような場合、競売を行っても買受人が付きにくく財産的価値は減少すると言え、財産の価格を減損する行為に該当すると考えられます。以上のように破産手続開始決定がなされる前でも、債権者に不利益をもたらすような財産隠しや変更行為は詐欺破産罪となります。重い罰則だけでなく免責不許可などその後の手続きでも不利に扱われることとなります。自社の資金繰りが不調となり、倒産手続きが見えてきた場合だけでなく、取引先や債務者の破産の可能性が高くなった場合にも、このような動きが無いかを慎重に見ていくことが重要と言えるでしょう。
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