今後のシニア法務担当者に必要なスキルまとめ
2017/07/25   コンプライアンス, 民法・商法, その他

1.はじめに

 コンプライアンス強化が企業の重要課題となっており、さらに、各企業の法務部に求められる役割は非常に重要なものとなって、業務量は増加しています。そして、業務量増加に伴う人員確保のため、法務人材の市場は売り手市場です。ただし、多くの求人は若手法務人材が対象です。例えば、法務人材紹介会社の2010年度の調査によれば、人材紹介会社に登録した登録者のうち、50代以降の人材は約13%で、転職できた人材の割合は転職成功者のうち、約4%に過ぎないそうです(年齢と法務転職マーケットの考察)。このように、売り手市場の法務であっても、50代ともなれば転職できる人数は大きく減るようです。このため、50代でも転職が容易となるような価値の高い法務人材となるためにはどのような経験やスキルを身につければよいか検討します。

2.実際の求人状況

 まず、50代以上の法務求人はどのような内容の求人が多いのか、必須又は歓迎要件にどのような条件を挙げていることが多いのか調査しました。

 50代以上の管理部門の求人を取り扱う求人サイトにて調査したところ、求人内容で多かったのは、法務部の部長・課長又はその候補を募集する求人が多いようでした。このため、必須要件として、法務部でのマネジメント経験が要求されていました。さらに、多くの求人が英語能力を要求していました。
 また、法務経験者の人材紹介を行う人材コンサルタントへのインタビューでは、法務だけにとどまらない経営的視点を有する人材や自走力がありアグレッシブさのある人材は多くの企業が欲しがる人材であると述べていました。また、視点を広げれば50代の法務担当者でも求人は存在するとも述べていました。

3.マネジメント経験を要求する意味

 そもそも50代は定年まで十数年しかなく、既に法務部がある大企業が50代の法務人材を募集することは稀です。これは、大企業には既に何人もの将来的なマネージャー・管理職候補がおり、席がないためです。むしろ、50代の法務人材の有する長年の法務経験を活かして、中小企業の法務部門の立ち上げスタッフ・マネージャーとして体制構築や社内教育に携わることが多いそうです(リーガルジョブボード)。このため、契約法務・株主総会準備・法律相談・訴訟対応・内部統制プログラム・リスクマネジメント等、広く法務の経験を積んだマネージャー経験者は50代の法務求人に応募が可能となります。他方で、単に50代の法務経験者で法務スタッフ経験しかない場合や、特定の契約・法律に特化した経験しかない場合には転職はかなり困難を伴うでしょう。

4.前提としての英語力

 グローバル化が進む現在において、約6割の日本企業が、今後3年程度の間に海外進出の拡大を図ろうとしているそうです( 「2016年度日本企業の海外事業展開に関する調査」(ジェトロ海外ビジネス調査)結果概要 )。このため、海外企業との契約交渉や海外弁護士との相談、国際法の調査など、海外展開に伴う法務を遂行するための高いレベルのグローバルコミュニケーション能力が必要とされているようです。

 では、どの程度の英語力があれば、他の法務人材とは一線を画する英語力があるといえるのでしょうか。
 まず、法務人材の45%がTOEIC701~850点の範囲におり、25%が850点以上であるようです(法務・弁護士の転職における英語力~TOEIC何点取れば転職で有利になる?!~)。つまり、約7割の法務人材がTOEIC700点以上の英語力を有するようです。

 では、TOEICの点数が高ければ転職は有利になるのでしょうか。国際法務では英文契約書による契約締結や契約交渉の場で英語力が求められます。このため、単なる会話とは異なり、専門性も高く、読解・作文量も多くなります。さらに、相手国のビジネスに関する文化や慣習の理解や契約締結時のニュアンスのすり合わせを行う調整力も必要とされます。このように、単にTOEICの点数が高いという程度の英語力では、転職が容易になるということはないと考えられます。あくまで企業がTOEICの点数を要求しているのは、目安に過ぎず、むしろ、実務として英語力を使用した経験が転職においては有利になるでしょう。

5.企業が欲する人材

 日本においては未だ、年功序列の考えが残っており、50代となると管理職に就くことが想定され、経営的判断ができる人材や事業を推進することのできる人材が需要が高くなります。このため、企業も管理職にしてもよい人材を欲しており、この意味で、経営的視点をもつ法務人材や事業を推進する自走力のある法務人材については50代でも需要のある人材といえるでしょう。
 特に、法務部を立ち上げようという企業においては、過去の案件の蓄積はなく、前任者がいるわけでもないため、自己判断できない案件について弁護士事務所にアポイントをとって相談に行くなど、使える方法は使うという自主性・自立性・行動力が求められます。また、今まで法務部がなかった以上、経営層も現場も法務的視点を有していない可能性が十分にあるため、法務的視点を説得的に啓蒙し広げることのできる力が求められるでしょう。その際、法的観点のみから啓蒙しても説得力は生まれないため、経営や現場を理解し、経営的観点・現場的観点から説得をする力が求められるでしょう。

6.視点の拡大

 日本の企業の多くが東京にあり、法務は本部機能であるため法務の求人の多くは東京にあります。しかし、法務人材も東京に集中しているため、地方の法務求人に目を向けてみるとより転職は容易になるでしょう。
 また、法務だけでなく、総務や人事、労務、経理など他の業務についても一括して行う管理職求人にも目を向けてみると転職の幅が広がるでしょう。

7.まとめ

 以上より、広く法務経験を積み、マネージャー経験を有する法務人材で、経営的視点や自走力のあるシニア人材については転職が比較的容易になると考えられます。このような経験・スキルを有しないシニア法務人材に関しては、東京のみでなく地方や、他職種を含む管理業務へ目を向け転職の幅を広げてみることが転職を有利に進める一つの手段だと考えます。

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