フォークリフト事故で書類送検、業務上過失と法人処罰について
2021/08/06 訴訟対応, 刑事法, その他

はじめに
大阪府泉佐野市の府道で、運搬作業中のフォークリフトに歩行者がはねられ死亡した事故で、大阪府警は先月30日、金属加工会社「西浦鋼線所」の社長ら3人と法人を書類送検していたことがわかりました。
運転していた従業員は現行犯逮捕されたとのことです。今回は業務上過失致死と法人処罰について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、今年4月、泉佐野市鶴原の府道の道路脇を歩いていた女性(47)が鋼線を乗せて走行してきたフォークリフトと衝突して死亡したとされます。
衝突したフォークリフトは「西浦鋼線所」のもので同社では30年以上前から警察の許可を得ずに道路を挟んで建つ工場の間を荷物を積んだまま行き来していたとのことです。
フォークリフトを運転していた同社従業員池口清昭被告(53)は自動車運転処罰法違反容疑で現行犯逮捕(現在公判中)され、同社社長(58)含む幹部3人と法人として同社が業務上過失致死の疑いで書類送検されたとされます。
過失致死傷の根拠法
刑法211条によりますと、業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は5年以下の懲役若しくは禁錮または100万円以下の罰金に処するとされております。いわゆる業務上過失致死傷罪です。従来は自動車運転による事故はこの規定によって処罰されておりました。
しかし悪質な事例を特に重く処罰する趣旨で平成19年改正の際に「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(自動車運転処罰法)が制定され、自動車事故の規定が独立しております。
同法による過失運転致死傷罪では7年以下の懲役、もしくは禁錮または100万円以下の罰金と刑法のものよりも罰則が加重されております。
業務上過失致死傷罪の要件
業務上過失致死傷罪が成立するには、
(1)業務上必要な注意を怠ったこと
(2)それにより人を死傷させたこと
が必要です。
「業務」とは人が社会生活上の地位に基づき反復・継続しておこなう行為であり、他人の生命・身体に危害を加えるおそれのあるものをいうとされております(最判昭和33年4月18日)。継続して行う意思があれば、1回の行為でも該当すると言われております。
そして注意を怠るとは、結果予見義務および結果回避義務に違反することとされております。これは自動車運転処罰法における過失でも同様です。
なお「業務」上ではない通常の過失致死罪の場合は50万円以下の罰金と、業務上過失致死罪に比べ相当軽い量刑となっております(210条)。
業務上過失と法人処罰
刑法の業務上過失致死傷罪では、「人を死傷させた者」と規定されており、この「者」は自然人のみで法人は含まれないと一般に考えられていると言われております。
例えば、企業活動により人を死傷させる事故が生じた場合、その事故を生じさせた従業員は当然として、その企業に保守安全管理上の義務違反がある場合はその管理担当者や取締役などの役員も起訴されることがあります。
一方法人としての会社自体は一般に起訴されないと言われております。懲役や禁錮といった身体刑を中心とする刑法では法人は処罰の対象としてなじまないとされているからです。なお刑法以外の、たとえば廃棄物処理法や食品衛生法などでは両罰規定として法人にたいしても罰金が規定されている場合が多いと言えます。
コメント
本件で鋼線を乗せたフォークリフトを運転していた従業員は自動車運転処罰法違反で起訴されております。そして30年以上にわたって道路使用許可などを取らずに安全管理対策を怠っていた同社社長ら幹部3人と法人としての同社が業務上過失致死罪の容疑で書類送検されました。
今後幹部3人に関しては起訴される可能性はあると言えますが、法人自体は起訴されないものと考えられます。
以上のように安全対策を怠っていた場合、事故を起こした従業員だけでなく、管理職や役員等も逮捕起訴されることがあります。なお民事での使用者責任では会社自身の責任も認められる可能性は高いと言えます。
今一度自社での安全管理体制に不備は無いか、必要な許可などは取得しているかを確認し従業員に周知していくことが重要と言えるでしょう。
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