会社に対する「就労証明書」の作成強要未遂に無罪判決 ー大阪高裁
2025/04/28 労務法務, 訴訟対応, 労働法全般

はじめに
会社に就労証明書の作成を求めたことで、強要未遂の罪に問われた労働組合員に対する差し戻し審で大阪高裁が17日、無罪判決を言い渡していたことがわかりました。就労証明書作成は会社の義務とのことです。今回は就労証明書について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、奈良市のミキサー運転手で連帯労組関西地区生コン支部の組合員(63)は2017年11月、京都府木津川市の生コンクリート会社で働く組合員の男性が子どもを保育所に通わせるために必要な就労証明書の作成、交付を会社の役員に執拗に求めたとされます。これにより強要未遂の罪に問われ2020年、一審京都地裁で懲役8ヶ月(執行猶予3年)の有罪判決を受けていたとのことです。その後2021年、二審大阪高裁では逆転無罪となり、2023年に最高裁が高裁判決を破棄し差し戻しておりました。なお一連の関西生コン事件では39人のうち20人が無罪となる異例の展開とされます。
就労証明書とは
就労証明書とは、ある人が特定の企業や組織で働いていることを証明する書面を言います。一般に保育園や幼稚園の申請、住宅ローン、ビザ申請、各種補助金や助成金の申請などで必要となってきます。記載される内容は、勤務先の名称や所在地、勤務開始日、雇用形態、勤務時間や日数、業務内容、収入の目安、企業の担当者の署名・押印などとされます。勤務先の人事部や総務部が従業員の求めに応じて作成することが一般的ですが、国がフォーマットを予め作成し、それに双方が記入するといった場合もあります。特に保育所等への入園の際に必要な就労証明書については、事業者の負担軽減のために令和5年5月から国が標準的な証明書の様式を策定しており、それをDLして記入し作成することとなっております。なお従業員等が会社の記名されている就労証明書を会社に無断で作成した場合は文書偽造等の罪に該当する場合があると言われております。
就労証明書の作成義務
それでは就労証明書について会社側に作成する義務はあるのでしょうか。上でも触れたように、認可保育所等に入園する場合、各自治体に就労証明書の提出が求められます。自治体が保育の必要性を判断するためです。これは子ども・子育て支援法施行規則2条2項2号で保育の必要性の認定を受けようとする保護者が申請書に、認定を受けようとする理由を証明する書面の添付を義務付けているからです。このように子ども・子育て支援法および同法施行規則では保育園の入園申請に就労証明書の添付を義務付けていますが、一方で会社側に対して従業員の求めに応じて就労証明書の作成を義務付ける条文は現状存在しておりません。しかし一般的に会社は合理的な範囲で従業員に協力することが求められており、特段の事情が無い限りは作成に協力すべきと言えます。
在職証明書とは
就労証明書に似たものとして在職証明書があります。一般に在籍証明書や就業証明書などと呼ばれることもあり、やや曖昧な概念と言えます。そのため就労証明書も含めて在職証明書と呼ぶこともあり両者に明確な違いは無く同じものと考えても差し支えないと考えられます。やはり在職証明書ないし在籍証明書についてはこれを規定する法律はなく、会社側に作成の法的義務は課されてはいないものと言えます。しかし上で触れた就労証明書と同様に、従業員が必要としている場合は、合理的な範囲で協力することが望ましく、特段の理由が無い限りは作成に協力することが適切と考えられます。
コメント
本件で組合員の男性従業員が子どもを保育所に通わせるために必要な就労証明書の作成を会社役員に執拗い求めたなどとして強要未遂の罪に問われたことにつき、差し戻し審の大阪高裁は再び無罪判決を出しました。大阪高裁は「会社には証明書の作成義務があり、被告の行為は社会的に正当性を欠くとはいえない」とのことです。条文上義務付けられていない就労証明書の作成義務を裁判所が認めた点で画期的な判決と言えます。以上のように保育所の入園申請や補助金申請、ビザの申請や各種国家試験受験など様々なところで会社の就労証明書や在籍証明書等が求められます。しかし根拠条文が無いなど会社側が困惑することも多いと考えられますが、合理的な範囲で社内で周知し従業員に協力していくことが重要と言えるでしょう。
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