中途採用比率の公表義務化とその影響
2021/06/30 労務法務, 労働法全般, その他

はじめに
ライフスタイルの多様化によって、より自分にあった労働環境を求める気運が高まっております。そして、多くの人が最適な労働環境を求めた結果、転職が活発化しております。
転職するにあたってやはり気になるのは、中途採用の者が転職先の企業にどれだけいるのかということだと思われます。
このような要請の下、2021年4月から特定の企業を対象に中途採用比率の公表が義務付けられることとなりました。
中途採用比率の公表義務化とは
労働施策総合推進法にある「労働政策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」が改正され、令和3年4月から従業員301人以上の大企業を対象とし、直近3年分の中途採用比率の公表を義務付けています。
なお、公表をしなかった企業に対する罰則は設けられておらず、あくまで公表を促すものに過ぎません。もっとも、コンプライアンスの観点から公表義務を負う企業は何らかの対応をすべきと思われます。
公表義務化の背景
中途採用比率の公表を義務付けた趣旨として、中途採用比率の高さを一般に知らしめることで中途採用をより身近に感じられるようにすることにあります。そして、中途採用が人々の選択肢に挙がりやすくなることで、ライフスタイルの多様化に対応できるという考慮がなされています。
大企業だけに公表義務を課したのは、新卒一括採用をする大企業においては中小企業に比べて中途採用比率が低い一方で雇用可能な人数が多いため、中途採用比率を伸ばすためには大企業に焦点を当てるべきとの考慮がなされたと推測されます。
公表義務化の影響
中途採用比率が高い企業は、それだけ人材確保に関して開けているというイメージを対外的に示すことができます。また、中途採用というのは入社前の能力を評価して採用に至るケースが多いことから、優秀な人材が多いというイメージアップにも繋がり得ます。
一方、中途採用比率の低い企業は人材獲得に関し閉鎖的なイメージを持たれかねず、転職者がそもそも選択肢に挙げない企業になりかねません。
中途採用比率の公表のメリット
先述のとおり、中途採用比率の公表は、企業にとって転職者を広く受け入れていることをアピールすることに繋がります。
そのため、比率の公表によって優秀な転職希望者の目に止まりやすくなるというメリットが考えられます。また、転職者を多く引き入れることができるようになればさらに中途採用比率が増加することとなり、正のスパイラルを生むことができます。
さらに、転職希望者からすると、新卒の者ばかりの企業では居心地が悪いのではないかといった不安を抱き、なおかつ中途採用の者が転職先の企業にどれほどいるのかを知るのは選考過程の後の方になることを考慮すると、中途採用比率を前もって知らしめることで、選考を途中で辞退されてしまうリスクを低減することができるようになります。その結果、採用にあたり必要となる人的・物的コストの削減に寄与するといえます。
コメント
大企業の多くは新卒採用・年功序列を軸とした日本型雇用慣習を前提としているため、中途採用者の活躍の場所が多くはなかったといえます。
しかし、中途採用比率の公表義務化によって風向きが変わり、大企業における雇用慣習が大きく変革する可能性があります。そして、能力・実績を買われて中途採用がなされるケースが多いことから、大企業において実力主義がより色濃く出るようになると推測されます。
また、中途採用の社会的ハードルが下がることによって、個々のライフスタイルに合った企業での労働を望む者たちが転職しやすくなるため、従業員の確保のために企業側も手を打たなければなりません。
つまり、中途採用の社会的ハードルが下がるということは、優秀な人材を確保するための企業間の争いが激化するということをも意味するのです。中途採用比率の公表義務化に関する企業の動向に注目していきましょう。今回の中途採用比率の公表義務化にあたって、企業の法務担当者としては中途採用比率の公表の影響や他社の動向を踏まえた上で、公表義務規定の履践をすべきかどうかの判断が求められることでしょう。
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