ナッツ元社員ら逮捕、金融商品取引法の偽計とは
2021/06/28   金融法務, 金融商品取引法, その他

はじめに

 会員制医療施設の開業を巡り、虚偽の情報を公表したとして東京地検特捜部は23日、パチンコ機器関連会社「Nuts(ナッツ)」(港区)の元社長ら4人を逮捕していたことがわかりました。

同社は現在破産手続き中とのことです。今回は金融商品取引法が規制する偽計について見ていきます。

事件の概要

 報道などによりますと、ナッツ社の元社長の男(52)と同社の大株主で実質的に経営を管理していた役員の男(55)、他役員2人は共謀して株価つり上げや新株予約権行使促進目的で、2019年に同社が開設するとしていた会員制医療施設の入会に関する売上が計2000万円しかなかったにもかかわらず、会員権の支払いを受けたように装い、売上が計5億6300万円だったとする虚偽の情報を開示した疑いが持たれているとされます。

 同社は1977年8月に設立され、パチンコ機器販売などを展開し、99年にジャスダックに上場しましたが、昨年2月に証券取引等監視委員会から強制捜査を受けていたとのことです。

金商法による規制

 金融商品取引法では、

①株式等の有価証券の取引に関して
②不公正な取引行為、風説の流布、偽計、相場操縦、仮装売買、仮名取引

などを禁止しております(157条~160条)。

不公正取引とは不正の手段、計画または技巧をすること、重要な事項について虚偽の表示または重要な事実の表示が欠けた文書を使用すること、虚偽の相場を利用することとされております。

相場操縦とは、取引誘引を目的として相場を変動させるために一連の売買等を行うこと、相場が変動する旨を流布すること、売買につき虚偽または誤解を生じさせるための表示を故意に行うこととされます。約定させる意思がないのに大量の注文をし、その後取り消す、出来高が低い銘柄で回注文、売り注文を繰り返すなどが典型例と言えます。

風説の流布、偽計等について

 金商法158条によりますと、

有価証券の取引のため、または相場の変動を図る目的をもって
②風説を流布し、偽計を用い、または暴行・脅迫をしてはならない

とされております。

違反した場合には10年以下の懲役、1000万円以下の罰金またはこれらの併科となっております(197条1項5号)。

「風説の流布」とは合理的根拠のない事実を不特定多数に伝達する行為とされております。存在しない架空の新規事業計画を公表するといった行為が典型例です。

そして「偽計」とは錯誤を生じさせる詐欺的な策略や手段、権謀術数を用いることなどと言われております。つまり有価証券の取引に関して相手方を騙す行為と言えますが、近年その相手方は一般投資家を想定されていると言われております。

風説の流布、偽計の摘発例

 実際に偽計に該当するとして摘発された例としては、時価総額の下落により上場廃止基準を下回りそうになった際に、自ら自社株を買い上げて一時的に株価を引き上げ、上場廃止を回避した旨の文書を公表したというものがあります。

また投資顧問会社がクライアント会社の新株予約権を行使して出資金を払込み、東証のTDnetで増資がなされた旨公表し、その後実態の無い売買の名目で出資金を投資顧問会社に戻したという架空増資の事例でも有罪判決が出ております。

すでに関連会社に買収させた会社を株式交換によって買収する旨TDnetで公表した架空買収の事例も存在します(ライブドア事件)。

コメント

 本件でナッツ社の元社長ら4人は株価つり上げ等の目的で同社が開設するとしていた会員制医療施設に関して、2000万円しかなかった売上を5億6300万円とした虚偽の情報を開示したとされます。東京地検特捜部は「偽計」に当たるとして4人を逮捕しました。

以上のように株式等の取引に関して虚偽の事実を公表して株価つり上げなどを行った場合には金商法違反に該当することとなります。金商法は上でも触れたように様々は不公正取引を規制しておりますが、その条文上の文言は抽象的でいずれの違反行為に該当するのかわかりにくい部分もあり、風説の流布なのか偽計なのか判然としない場合もあります。

どのような場合に違反となるかを裁判例などから具体的にイメージしておくことが重要と言えるでしょう。

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