ワタミが優先株でDBJに第三者割当増資、種類株式について
2021/05/26 商事法務, 戦略法務, 会社法, その他

はじめに
居酒屋チェーンを運営するワタミは24日、日本政策投資銀行(DBJ)から120億円を調達すると発表しました。優先株による第三者割当増資を行うとのことです。今回は会社法が規定する種類株式とその発行手続きについて見ていきます。
事案の概要
ワタミの発表などによりますと、同社はDBJ飲食・宿泊支援ファンド投資事業有限責任組合を引受先とする第三者割当増資の方法により120億円を調達するとされます。目的はコロナの影響による居酒屋業の業績が悪化するなか、安定しているからあげ店や焼肉店などへの業態転換の原資とするもので、発行価額は1株につき1億円で優先株を120株発行する予定、普通株式への転換権は付与されないとのことです。同時にこれにより増加する資本金および資本準備金の一部をその他資本剰余金に振り替える予定とされ、6月27日の株主総会で定款変更の特別決議承認を取ることとなっております。
種類株式とは
種類株式とは、剰余金の配当や議決権の行使などに関して内容の異なる2種類以上の株式を発行する場合の各株式を言います。本来株式会社における株主は株主平等原則のもと保有する株式の数に応じて平等に扱われることとなっております。しかし株主によっては会社運営には興味がなく剰余金による経済的な利益のみを求めている場合や、逆に積極的に経営に関与したいなどニーズは様々です。また設立して間もないベンチャー企業や、業績が悪化して融資を受けにくい場合にインセンティブを与えることもできます。このような場合に利用されるのが種類株式です。
種類株式の種類
会社法108条1項では、剰余金配当、残余財産分配、議決権、譲渡制限、取得請求権、取得条項、全部取得条項、拒否権、役員選任権について内容の異なる種類株式を発行することができるとしております。剰余金については他の株式より優先して配当するもの、逆に劣後または配当しない定めが可能です。会社が解散した際の残余財産の分配についても同様ですが、剰余金、残余財産の両方を無配とする定めはできません。通常は議決権を制限するかわりにこれらの配当を多くする場合が多いと言えます。株主総会決議で全株式を取得する全部取得条項は組織再編の際に少数株主を排除する目的などで利用されます。役員選任を当該種類株主総会によらなければならないとする選任権付株式は公開会社、指名委員会等設置会社では定めることはできません。
種類株式発行の手続き
種類株式を発行するには、会社法108条2項に定める事項と発行可能種類株式総数を定款で定める必要があります。定款変更をすることとなるので株主総会の特別決議による承認が必要です(309条2項)。またすでに種類株式を発行している会社が更に種類株式を発行する場合、ある種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合は当該種類株主総会による決議も必要とされます(322条1項1号)。定款変更がなされたら法務局で登記をすることとなります。発行可能種類株式総数と各種類株式が登記事項となっており、その際の登録免許税は3万円となります。なお株式発行と同時に増加した範囲で資本金を減少する場合は、本来必要な株主総会特別決議は不要となり、取締役会決議、または取締役の決定で可能です(447条3項)。この場合でも債権者異議手続きは省略できません。
コメント
本件でワタミは日本政策投資銀行の持つファンドを引受先とする第三者割当増資で120億円を調達するとしております。またその際、同時に増加する範囲内で資本金と資本準備金を減少させ、その他資本剰余金に振り替える予定としております。債権者異議の申述は5月25日から6月25日までとなっております。以上のように優先株を発行することによって資金調達を行い、その範囲で資本金減少を行うことによって配当可能な剰余金も残すことができます。ワタミは業績が悪化している本業から、巣篭もり需要により好調な宅食事業に転換していく見通しです。自社の業績や財務状況にあった内容の種類株式発行で積極的に資金調達を検討していくことが重要と言えるでしょう。
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