東南アジアの法務事情~台湾編~
2010/09/03   海外法務, 海外進出, 外国法, その他

 今回は、Ns諸国の1つとされる台湾の法務事情についてレポートします。

1 はじめに

台湾は、正式を台湾(中華民国)(英語表記:Republic of China, Taiwan)と言う。第2次世界大戦前は日本による統治が続いたが、日本の敗戦後、中国本土での共産党と国民党の対立を受けて、1949年に共産党が中華人民共和国を建国すると、蒋介石を中心とする国民党が中国から台湾へ亡命した。国民党は、1949年以降中華民国として台湾の支配を続け、現在に至っている。現在の総統は馬英九である。日本と台湾の面積、人口、言語、宗教、GDPに関する比較は以下のとおりである。

日本台湾
面積377,944k㎡36,000k㎡
人口約1億2700万人約2305万人
言語日本語北京語、福建語、客家語
民族主に日本人主に漢民族
宗教神道、仏教、キリスト教仏教、道教、キリスト教
GDP約49,093億米ドル4,026億米ドル
 なお、1960年代後半に中国が国際社会に復帰したのに伴い、承認国を台湾から中国へと転換する国が相次いだこともあって、現在台湾と外交関係のある国家は23カ国のみである。もっとも、日台関係は非政府間の実務関係として維持されている。

2 台湾への投資について

 台湾は、1950年代からアメリカの援助を受け、その後も外資の誘致に積極的な姿勢を示し、軽工業を中心とした輸出指向型産業から重工業、電子工業を中心とする輸出産業へと転換を遂げた。しかし、2000年以降は中国への投資が増えたのに伴い、外資獲得が困難となり、経済成長でも2008年では0,12%と低迷している。

 投資に関しては、「外国人投資条例」による許可を要する。業種・出資比率・資本金に関して原則として制限はないが、林業・郵便業・武器製造等に関しては出資が禁止される。

 一方、研究開発・電子工業・環境保全等のハイリスク・ハイリターンの業種に関しては、租税優遇、非課税優遇、低利融資、科学工業園区の設立等で外資誘致を行っている。また、上記条例の許可に基づき設立されたFIA法人については、以下のようなメリットがある。


  • ・監査役のうち最低1名は台湾国内に住所を持たなければならないという規制を受けない。
  • ・出資額が継続的に45%以上である場合には、会社法上の「新株発行の際には10%から15%までを会社従業員に購入させる」という規制を受けない

3 台湾の会社法について

台湾に進出する際の主な形態としては、①現地法人、②支店、③駐在員事務所、④工事事務所の4つがある。この4つの概要は以下の表のとおりである。なお、個人事業に関しては、外国人が行うことが法律上想定されておらず、上記の優遇措置も受けられないので、事実上困難である。

現地法人支店駐在員事務所工事事務所
根拠法会社法(台湾公司法)左に同じ左に同じ営利所得税法・営業税法
根拠法上の扱い設立登記必要左に同じ届出で足りる国税局への届出
法人格の有無ありありなしなし
事業目的全般本店での営業行為に限定情報収集・市場調査のみ台湾国内での工事の際の窓口
①現地法人に関しては、ア股份有限公司(日本の株式会社に相当)、イ有限公司(日本のかつての有限会社に相当)、ウ無限公司(日本の合名会社に相当)、エ両合公司(日本の合資会社に相当)の4種類があるが、日本の企業が台湾に進出する場合の形態の多くはアである。

ア・イに関しては、かつてアではNT$50万、イではNT$25万という最低資本金要件があったが、2009年4月の公司法改正によりこのような最低資本金要件が撤廃され、NT$1からの会社設立が可能となった。株主数・取締役数・監査役数において、以下の違いがある。

株式公司有限公司
株主数2名以上(当局又は法人株主1名で組織する場合を除く。1名以上
取締役数3名以上1名以上
監査役数1名以上(公開会社の場合は2名以上不要

4 台湾の競争法について

(1) はじめに

台湾における競争法は、公平交易法といい、1992年に施行されている。同法は、①競争制限行為の規制、②不公正競争行為の規制を主な内容とする。①については、独占的地位の濫用禁止、企業結合の事前届出制、カルテルの禁止とその例外を定めている。②については、再販売価格維持、自由競争・公正競争阻害、商品・商標の模造詐称、不当表示等について規制している。

(2)①競争制限行為の規制について

公平交易法での独占的地位の濫用禁止については、行為主体が市場における支配的地位を要件としている。日本の独占禁止法において不公正な取引方法の一類型として禁じられる優越的地位の濫用行為ではそのような支配的地位を要件としていないことに留意すべきと言える。公平交易法における「支配的地位」とは、1事業者の場合では市場支配率2分の1以上、2事業者では3分の2以上、3業者では4分の3以上のことをいう。なお。左のような支配率を有する場合でも、個別事業者の支配率が10分の1未満の場合や前年度の総売上がNT$10億未満の場合には、例外的に支配的地位を有しないとされる。

(3)②不公正競争行為の規制について

自由競争・公正競争妨害に関しては、特定事業者への損害目的での他の事業者への働きかけ、不当な差別的扱い、脅迫・利益誘導による取引・働きかけ等が含まれる。これらは、日本の独占禁止法上の「不公正な取引方法」に含まれるものであるが、上記の「優越的地位の濫用」に対応するものはない。なお、かかる日本法上の「優越的地位の濫用」については公平交易法上「その他の欺罔的又は明白に不公正な行為」によりカバーされる。

台湾の金融規制法について

(1)台湾の金融改革について

第二次世界大戦後の台湾の金融市場の形成については、長らく政府主導の公営銀行により行われた。しかし、1980年代に入り、アメリカからの金融市場自由化の要請が強まると、1989年に銀行法が改正され、公営銀行の民営化、貯蓄銀行業や信託銀行業の解禁等が行われた。もっとも、このような急激な規制緩和により、新銀行の設立が相次ぎ、競争が激化したため、不適切な融資、ひいては不良債権の増大へとつながった。このような事情を背景に、金融制度改革として、2000年に①金融機構合併法が、2001年に②金融持株会社法が制定された。これらの法により政府主導で金融機関の合併や持株会社化が進んだ。

なお、台湾と中国本土との間で金融市場自由化の方向が進んでおり、金融業務往来及投資許可弁法が2010年施行されたのに伴い、中台間で銀行・証券・保険への投資が解禁されることとなった。

(2)消費者金融について

消費者金融に関しては、上記のような金融規制後に盛んになり、商業銀行によるキャッシュカードの発行等を通じて競争が熾烈になった。そのため、借主に多大な負担が及ぶこととなり、自殺者も増えた。このため2006年には、債権の強引な取り立ての禁止や、追加貸し出し条件の規制等が行われた。

(3)金融機関の監督について

金融機関の監督に関しては、行政院財務部と中央銀行が共同して行っている。前者は、金融監督業務を行い、後者は金融検査業務を行う。銀行検査では、自己資本率を8%以上に保つように指導が行われている。

6 台湾の企業購入法について

台湾においては、M&Aを行う際に個別法として企業購入法(日本の会社法でいうが制定されている。同法において特に注意すべき点は以下の通りである。


  • ・合併比率、株主へ対価等について独立専門家への求意見
  • ・合併後の労働者の雇用、退休金・資遣金の発給
  • ・外国会社との合併に際しては、当該外国会社の準拠法の実体及び手続において当該形態の合併が可能であること
  • ・合併契約書における、合併前及び合併後の資本金、株式交換の場合にはその比率計算の根拠及び変更可能の条件
  • ・30日以内の債権者に対する異議手続を経ないと、合併をもって債権者に対抗できないこと

また、公開会社の合併に際しては証券取引法が適用され、公開会社の発行済み株式の10%以上の取得について同法が適用される。

7 台湾の法人税法について

(1)税率について

 台湾では、営利目的活動に関し、法人・個人を問わず営利事業所得税が課せられる。同税の税率は、課税所得がNT$120,000以下の場合には免税となる一方、それを超える場合には最高17%(2010年に20%から引き下げ)が税率となる。なお、毎年新たに発生する未配当利益については別途10%の課税となる。

(2)課税方式について

課税に関しては属地主義が採用され、営利事業の主たる事務所が台湾に存在する場合(内国法人)には全世界所得に対して課税が行われ、国外の源泉所得に関して納税をしている場合には税額控除方式により国際二重課税を回避する。外国法人については、台湾源泉の所得についてのみ課税が行われる。日本と台湾の間では租税条約は締結されていないため、台湾における税額控除は日本の法人税法上、みなし外国税額控除とされない。

(3)移転価格税制について

台湾では、「営利事業所得税に係る通常の処理に適合しない移転価格審査準則」により2004年から移転価格税制が施行されており、台湾と租税条約を締結していない日本の企業には大きなリスクとなっている。具体的な内容は以下の通りである。

・関連企業組織図、関係会社一覧表、関連者間取引一覧表、関連者間取引明細表の営利事業所得確定申告書への添付

・具体的なチェック後に国税局から依頼があった場合には、原則1カ月以内に移転価格関連資料(企業総覧、関連企業の資料、移転価格報告等及びそれらの中国語への翻訳)の提出。これを怠ると、NT$3,000~30,000の罰金が科される。

8 台湾の労働法について

(1)外国人の就業について

台湾において、外国人が就業するには、まず行政院労工委員会に許可申請し、許可を受けた後に外交部領事事務局に在留許可申請をしなければならない。そして、かかる許可を受けた外国人は勤務に際して、国民健康保険及び労働保険に加入しなれければならない。

(2)労働基準法について

 台湾の労働基準法上、1日の勤務時間は原則として8時間、2週間の勤務総時間は原則として84時間を超えてはならない。残業時間については、1日4時間、1カ月合計で46時間を超えてはならない。残業時間分の手当てについては、1日分につき2時間以内の場合には、通常の給料の3分の4倍、2時間を超える場合には通常の給料の3分の5倍が支払われることになる。

 休暇については、結婚休暇、忌引休暇、傷害休暇、私用休暇、出産休暇、配偶者出産休暇等に細かく分かれており、私用休暇については年間14日まで取れるが、その間の給与は支払われないのが特徴である。なお、一定の専門職については労使双方の合意により、勤務時間・休日・休暇等について上記制限を受けずにそれらにつき約定することができる。

 解雇については、営業譲渡・事業変更・能力不足等の場合には、勤務3カ月以上1年未満の場合には10日の、1年以上3年未満の場合には20日の、3年以上の場合には30日の予告期間を定めて使用者は被用者を解雇することができる。一方、被用者が正当な理由なく3日連続、または1カ月に6日間欠勤した場合や実刑判決を受けた場合等は予告期間なく使用者は解雇できる。

(3)定年退職金について

台湾では、強制退職年齢は満65歳であり、退職金に関しては個人単位での積立分から満60歳以降に支給されるが、外国人従業員に関しては支給対象外である。

9 台湾の知的財産法について

(1)はじめに

台湾はWTOに2002年に加盟後、知的財産制度の浸透に努めてきた。台湾における主な知的財産関係法は、①特許法、②商標法、③著作権法である。また、知的財産保護推進に向けて、2007年に知的財産案件審理法・知的財産法院組織法が制定され、知的財産の審理につき法律面から強化がなされた。もっとも、審査担当者数に限界があり、毎年の申請数(約8万件)に対して審査が追いつかない状況となっているという問題が残っている。

(2)①特許法について

特許法で保護される権利は、発明特許、実用新案、意匠権である。2009年の法改正により、発明特許の範囲に動植物に関する発明も含まれることとなった。申請日からのそれぞれの権利の期限は、発明特許20年、実用新案10年、意匠権12年である。

(3)②商標権について

著作権は、原則として著作者の生存期間及び死後50年である。著作者の死後40~50年に公表された著作物については、公表から10年間保護されることとなる。

(4)③著作権法について

著作権は、原則として著作者の生存期間及び死後50年である。著作者の死後40~50年に公表された著作物については、公表から10年間保護されることとなる。

(5)知的財産侵害に対する保護について

台湾における知的財産侵害への対応策としては、①警告文の送付、②民事手続(仮処分・仮差押、本案手続)、③告訴を経た上での刑事手続が存在する。なお、民事の損害賠償請求に関しては、故意の侵害に対して懲罰的損害賠償制度が設けられており、特許権侵害の場合には推定損害額の最大3倍まで、著作権侵害の場合には最大NT$500万まで賠償が命じられうる。

10 台湾の法曹制度について

台湾における弁護数は2006年時点で4000人弱である。かつては司法官試験(裁判官・検査官用の試験)と司法試験(弁護士用の試験)に分かれていたが、2007年から両者を一体にした新たな司法試験が始まった。同試験については、台湾の大学の法学部を卒業して受験するのが原則であるが、法学部以外の学士の者についても、別途法律専門の研究所を修了すれば受験可能である。同試験に合格した者が司法修習を受ける資格を有することとなり、弁護士の場合は6カ月、裁判官・検察官の場合には2年間の修習が必要となる。

以上

 

<参考文献等>

・嚴 勝雄「台湾―いま激動する国―」p78~79 二宮書店 Amazonで購入
若林正太 劉進慶 松永正義 「台湾百科 第二版」p46~53 大修館書店 Amazonで購入
・外務省 台湾該当ページ
NRI 台北支部 日本企業台湾支援 JAPAN DESK該当ページ
該当ページ
・台湾で起業該当ページ
・SABC JAPAN 会社の形態と法人設立の手続き該当ページ(リンク切れ)関連リンク
・SABC 総合コンサルティング該当ページ
JETRO 台湾 投資制度「外資に関する規制」「税制」「外国人就業規則・在留許可、現地人の雇用」「技術・工業および知的財産供与に関わる制度」「外国企業の会社設立手続き・必要書類」該当ページ
該当ページ

該当ページ

該当ページ
・財団法人 交流協会 台湾経済事情 貿易投資Q&APDFファイル

PDFファイル

該当ページ
・江口公典 顔廷棟 「研究ノート 独占禁止法制における優越的地位濫用禁止の日台比較」慶應法学第14号(2009:9)
・台湾の法人税法の概要該当ページ
・文化庁 台湾における著作権侵害対策ハンドブックPDFファイル
・特許庁 WTO加盟後の台湾知的財産権エンフォースメント制度の実態についてPDFファイル
・早稲田大学 グローバルCOEプログラム<<企業法制と創造>>総合研究所 台湾での知的財産侵害に対する民事及び刑事手続における懲罰的損害賠償PDFファイル
Y’s CONSULTING GROUP 「ニュース 中国金融機関、台湾進出を開放」「台湾事情 台湾経営マニュアル」該当ページ(リンク切れ)
該当ページ
・福井康太 「世界各国法曹制度の現状と課題:2006年度総合演習(法曹の新しい職域)の記録」<<企業法制と創造>>総合研究所 台湾での知的財産侵害に対する民事及び刑事手続における懲罰的損害賠償PDFファイル
・中網 栄美子「台湾の法曹養成~法務部司法官訓練所に於ける教育について~」PDFファイル

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