東南アジアの法務事情~マレーシア編~
2010/08/30 海外法務, 海外進出, 外国法, その他

マレーシアは、アセアン諸国の中でも安定した経済成長率を維持し、最近とくに発展著しい国です。
マレーシアに進出しようとする際のメリットとして挙げられるものは、①英語の普及率の高さ ②外資規制緩和・優遇政策 デメリットとしては、①イスラムの宗教色の強さ ②ブミプトラ政策 が挙げられると考えられ、これらのバランシングから法制度も存在しています。
現地での体験も参考にしながら、以下、レポートしていきます。
1 はじめに
首都はクアラルンプールである。面積は33万km2(日本の約0.9倍)、人口は2657万人を有し、人口構成としてはマレー系65.1%、中国系26.0%、インド系7.7%の多民族国家となっている。
政体は立憲君主制、議院内閣制であり、元首はミザン・ザイナル・アビディン国王が君臨するが政治的実権はほとんどない。経済面においては2010年第2四半期(4?6月)の国内総生産(GDP)成長率が予想値を上回る8.9%となり、現在リンギ相場を押し上げている。
公用語はマレー語だが、中国系住民社会では中国語、インド系住民社会ではタミール語が使用され、また、各民族間で会話をする際は英語が使用されている。よって、都会や田舎に限らず、英語の普及率は90%と広く、契約の際にも英語が使用されているので、マレーシアでのビジネスにおいて、マレー語習得必要性はほぼ無いといっていいだろう。
2 ビジネスの際注意すべき法律
(1) 就労VISAについて
マレーシアにて就労する場合、以下の3種類のパスのいずれかをイミグレーションに申請し、取得する必要がある。①雇用パス(Employment Pass)②一時就労パス(Visit Pass-Temporary Employment)③専門職パス(Visit Pass-Professional)
雇用パスは、通常駐在員が取得するパスである。現地法人・外資企業支店・駐在事
務所に雇用される外国人が対象となる。IT分野では23才以上(2年間の実務経験必要)、それ以外の分野では27才以上となっており、ハイテク志向のための優遇が窺える。
一時就労パスや専門職パスは一年以内の短期就労者が対象となる。個人で起業しようとする際には、まずこのどちらかを取得することになる。
(2) 会社法について
マレーシアにおける会社形態として①株式有限責任会社 ②保証有限責任会社 ③株式保証有限責任会社 ④無限責任会社 の4つがある。
株式有限責任会社がマレーシアにおける一般的な会社形態で、さらに株式公開の有無により、公開会社(社名の後にBerhadまたはBhd.)と非公開会社(社名の後にSendirian BerhadまたはSdn.Bhd.)に分かれる。通常外国資本が法人を設立する場合、財務内容の開示義務や手続きが必要ない非公開会社とするケースが多い。設立手続きは比較的容易である。
また、会社は1名以上の秘書役を置く必要がある旨規定されている。秘書役は定款など法定文書の作成・記録・保管、株主総会の招集、議事進行に関する事務、株券に関する事務、税務申告書の作成などを行うが、実際の事務は弁護士が代行することも多い。
(3) 租税法について
法人税率は2009年度賦課年度以降は25%である。居住法人の判定基準は日本の本店所在地主義と異なり、いわゆる管理支配地主義であり、設立国を問わず、最低1回の取締役会議が実際にマレーシアで開催され、かつ当該会議の開催を記録した会議議事録があれば、通常、マレーシア内国歳入庁(IRB)は、当該企業をマレーシアの税務上の居住者であるとみなす。
日系企業には二重課税防止条約による軽減税率の適用と、その他個々に、ハイテク産業・小規模企業・農業部門・観光部門・研究開発・経営統括本部等に対する優遇措置がある。
(4) 労働法について
礼拝などの宗教上の業務中断・休暇が労働法で認められており、ラマダン(断食)時期には就業時刻も早まる等、現地の安定的労働力の確保には危惧感がある。
また、ブミプトラ(マレー人優遇)政策のために外国人雇用が制限を受けている。
雇用主は外国人労働者を雇用することを目的として現地人従業員の雇用契約を解除することが禁止し、会社の従業員が削減される場合は、雇用主はマレー人従業員を解雇する前に同程度の能力の外国人労働者を解雇するよう要請される。
マレーシア最低賃金が上昇していることもあり、企業は外国人就労者に依存する率が高いが、2009年には失業率悪化への懸念から、製造業・サービス業における外国人労働者の新規雇用は一時凍結されている。
現地日系製造企業では労働力不足が問題となっており、業務移転を行う可能性も出てきている。
(5) 不動産関連法について
マレーシアでは外国人・外国資本が比較的自由に不動産取得することができる。マレーシア政府自体が奨励しており、低賃金の多いマレー人が購入できない不動産の活用が目的と思われる。よって、ブミプトラ政策により一定の規制は存在し、15万リンギット(RM)以下の廉価な不動産を取得することはできない。
マレーシアにおいて司法書士のような隣接法曹は存在しないため、契約・登記は弁護士を通じてなされる。オーナーが個人となる場合も多いため、紛争未然防止のためにも弁護士の活用は重要となると思われる(事実、権利関係のトラブルも多く発生している)。
(6) 法曹事情について
マレーシアでは法曹の種類は判事・検事・弁護士の三者にかぎられる。日本のように行政書士や司法書士等の隣接法曹は存在しないが、法廷弁護士・事務弁護士として専門が分かれているので、依頼の際には注意が必要である。弁護士数は約10200人であり、その多くはクアラルンプールとペナンに集中している。弁護士資格は、法学部(4年制課程)を卒業したのち、7年以上の経験を有する弁護士の事務所で9ヶ月間の実務研修を受ければ取得できる。イギリスなど他のコモン・ロー諸国で弁護士資格を取得した者は、1年間マレーシア法の課程を受けたのち、試験を受けてマレーシア法弁護士の資格を取得できる。
ニューストレーツタイムによると、マレーシアではここ5年の間に92人の弁護士がクライアントからの金の着服等の不法行為を理由に弁護士名簿から削除されたという。法曹倫理の低下が問題となっている。
外国弁護士はマレーシアで法廷業務を行うことはできないが外国法上のコンサルティングを行うことはでき、また、外国弁護士もマレーシア弁護士と法律事務所を共同経営することはできる。
<参考文献等>
・鮎京正訓「アジア法ガイドブック」名古屋大学出版会 | ![]() |
・「マレーシアでの事業展開」さくら総合研究所 環太平洋研究センター | ![]() |
・税理士法人トーマツ「アジア諸国の税法(第6版)」 | ![]() |
・地球の歩き方 | ![]() |
・マレーシアナビ マレーシア発ニュース速報 | ![]() |
・マレーシアにおける貿易・投資上の問題点と要望 | ![]() |
・マレーシア公式資料 優遇措置 | ![]() (リンク切れ) →代替リンク |
・マレーシア不動産情報 | ![]() →(代替リンク) |
・世界各国法曹の現状と課題:
2006年度総合演習(法曹の新しい職域)の記録 | ![]() |
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